子さんのことかい? それとも雅子さんの実家のことかい?」
吉本は籐椅子《とういす》の中にほとんど仰向きになるほど深々と埋まって、微笑を含みながら言った。
「そう具体的に挙げろと言われちゃ、なんにも言えないがね。きみが偽映鏡の話をするから、ぼくもそれを譬《たと》えに使っただけで……」
永峯もそう言って、今度はまともに吉本の顔を見ながら爽《さわ》やかに笑った。
そこへ、雅子が女中に果物やサイダーなどを持たせて出てきた。彼女は清楚《せいそ》に薄化粧を刷《は》いて、いっそう奇麗になっていた。
「さあ、どうぞ、吉本さん」
彼女はそう言って、彼らのコップにサイダーを注《つ》いだりした。秋川の妹であったころに比べると、彼女はいかにも若妻らしい淑《しと》やかさを見せていた。
「なにも構わないでください。それよりも、雅子さんもぼくらの仲間に入っちゃどうです?」
「え、入れていただきますわ」
彼女は明るく微笑みながら傍の椅子に腰を下ろした。
「永峯! それできみはいったい、いまどんなことをしているんだ?」
「いまは搾取階級なんだ」
「勤めているんだろう? いったい、何をしているところなんだい?」
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