に復《かへ》るに庶《ちか》し。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
〔評〕幕府勤王の士を逮《とら》ふ。南洲及び伊地知正治《いぢちまさはる》、海江田武治《かいえだたけはる》等尤も其の指目《しもく》する所となる。僧|月照《げつせう》嘗て近衞公の密命《みつめい》を喞《ふく》みて水戸に至る、幕吏之を索《もと》むること急なり。南洲其の免れざることを知り相共に鹿兒島に奔《はし》る。一日南洲、月照の宅を訪《と》ふ。此の夜月色|清輝《せいき》なり。預《あらかじ》め酒饌《しゆせん》を具《そな》へ、舟を薩海に泛《うか》ぶ、南洲及び平野次郎一僕と從ふ。月照船頭に立ち、和歌を朗吟して南洲に示す、南洲|首肯《しゆかう》する所あるものゝ如し、遂に相|擁《よう》して海に投《とう》ず。次郎等水聲起るを聞いて、倉皇《さうくわう》として之を救ふ。月照既に死して、南洲は蘇《よみがへ》ることを得たり。南洲は終身《しゆうしん》月照と死せざりしを憾《うら》みたりと云ふ。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
二二 誘掖而導[#レ]之、教之常也。警戒而喩[#レ]之、教之時也。躬行以率[#レ]之、教之本也。不[#レ]言而化[#レ]之、教之神也。抑而揚[#レ]之、激而進[#レ]之、教之權而變也。教亦多[#レ]術矣。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
〔譯〕誘掖《いうえき》して之を導《みちび》くは、教の常なり。警戒《けいかい》して之を喩《さと》すは、教の時なり。躬《み》に行うて之を率《ひ》きゐるは、教の本なり。言はずして之を化するは、教の神《しん》なり。抑《おさ》へて之を揚《あ》げ、激《げき》して之を進《すゝ》ましむるは、教の權《けん》にして而て變《へん》なり。教も亦|術《じゆつ》多し。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
二三 閑想客感、由[#二]志之不[#一レ]立。一志既立、百邪退聽。譬[#二]之清泉湧出、旁水不[#一レ]得[#二]渾入[#一]。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
〔譯〕閑想《かんさう》客感《きやくかん》は、志の立たざるに由る。一志既に立てば、百邪退き聽《き》く。之を清泉《せいせん》湧出《ようしゆつ》せば、旁水《ばうすゐ》渾入《こんにふ》することを得ざるに譬《たと》ふべし。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
〔評〕政府|郡縣《ぐんけん》の治《ち》を復《ふく》せんと欲す、木戸公と南洲と尤も之を主張す。或ひと南洲を見て之を説く、南洲曰く諾《だく》すと。其人又之を説く、南洲曰く、吉之助の一諾、死以て之を守ると、他語《たご》を交《まじ》へず。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
二四 心爲[#レ]靈。其條理動[#二]於情識[#一]、謂[#二]之欲[#一]。欲有[#二]公私[#一]、情識之通[#二]於條理[#一]爲[#レ]公。條理之滯[#二]於情識[#一]爲[#レ]私。自辨[#二]其通滯[#一]者、即便心之靈。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
〔譯〕心を靈《れい》と爲す。其の條理《でうり》の情識《じやうしき》に動《うご》く、之を欲《よく》と謂ふ。欲に公私《こうし》有り、情識の條理に通ずるを公と爲す。條理の情識に滯《とゞこほ》るを私と爲す。自ら其の通《つう》と滯《たい》とを辨《べん》ずるは、即ち心の靈《れい》なり。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
二五 人一生所[#レ]遭、有[#二]險阻[#一]、有[#二]坦夷[#一]、有[#二]安流[#一]、有[#二]驚瀾[#一]。是氣數自然、竟不[#レ]能[#レ]免、即易理也。人宜[#二]居而安、玩而樂[#一]焉。若趨[#二]避之[#一]、非[#二]達者之見[#一]。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
〔譯〕人一生|遭《あ》ふ所、險阻《けんそ》有り、坦夷《たんい》有り、安流《あんりう》有り、驚瀾《きやうらん》有り。是れ氣數《きすう》の自然にして、竟《つひ》に免《まぬが》るゝ能はず、即ち易理《えきり》なり。人宜しく居つて安んじ、玩《もてあそ》んで樂《たの》しむべし。若し之を趨避《すうひ》せば、達《たつ》者の見に非ず。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
〔評〕或ひと岩倉公幕を佐くと讒《ざん》す。公|薙髮《ていはつ》して岩倉邸に蟄居《ちつきよ》す。大橋|愼藏《しんざう》、香《か》川|敬《けい》三、玉松|操《みさを》、北島|秀朝《ひでとも》等、公の志を知り、深く結納《けつなふ》す。南洲及び大久保公、木戸公、後藤象次郎、坂本龍馬等公を洛東より迎へて、朝政に任ぜしむ。公既に職に在り、屡《しば/\》刺客《せきかく》の狙撃《そげ
前へ 次へ
全18ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山田 済斎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング