だと思ひます。

 其他の歌――
[#ここから2字下げ]
佐渡と越後は竿さしや届く橋をかけたや船橋を
[#ここで字下げ終わり]
 勿論越後に向つた小木の方の歌です。「何故に届かぬわが思ひ」とも歌ひます。
[#ここから2字下げ]
佐渡で搗く餅越後でならす佐渡と越後はひとねばり
[#ここで字下げ終わり]
「飾つきや」とも、「越後でこねる」とも歌ひます。
[#ここから2字下げ]
金があるとて高慢ぶるな佐渡ぢやみみずがふんに出す
[#ここで字下げ終わり]
 今でも相川の濱邊には瑪瑙や紫石英、赤玉、などと交つて、鑛石が落ちて居ります。三菱が山を引受けてから、慶長以來の捨て鑛を濱から拾ひ、家の屋根の上の板を押へるために載せてゐる石を買ひ取つて、精錬したさうです。
[#ここから2字下げ]
あひが吹かぬか荷が無うて來ぬか但しや新潟《にひがた》の川留か
[#ここで字下げ終わり]
 あひの風は相川では東北北の風、小木邊では東南の風です。
[#ここから2字下げ]
空のよいときや新潟が見える殿はにがたの川裾に
澤根通れば團子が招く團子招くな錢はない
[#ここで字下げ終わり]
 澤根が佐渡の西の船着場、兩津――昔の夷と湊――が東の、小木が南の船着場になつて居ります。小木は今では昔の女郎屋が料理屋に變つて來ました。兩津は今なほ遊廓町です。澤根は近くに二見と言ふ遊廓町を控へて居るので正式の遊女は居りません。此頃から今ではほんとうに胃の腑を滿たす澤根團子と言ふ名物が出來て居ります。
[#ここから2字下げ]
酒は酒屋に團子は茶屋に女郎は相川の市町に
[#ここで字下げ終わり]
と言ふ歌もあります。
[#ここから2字下げ]
來るか來るかと上沖見れば矢島經島影ばかり
面の憎いは澤崎鼻だ見たい帆影をはやう隱す
[#ここで字下げ終わり]
 これらは小木全盛時代の遺物です。今でも小木の鎭守の社の前には道祖神とならんだ數個の陰陽石に捧げものが絶えません。毎年六月三十日にその社で輪くぐりと言ふものを町の男女にやらせます。男は神殿にある輪をくぐつたら右へまはつて歸る、女はその反對にまはると言ふので、全町の人が其れをやりに行きます。輪はわらで造つて杉の葉で飾つたものです。社は木崎神社と言つて、小木のそとのま、内のまの二つの港のまん中に突き出した半島にあつて、祭神は此花咲耶姫だと言ふ事です。此祭の晩に必ず買はなければなら
前へ 次へ
全8ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
江南 文三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング