さをどりを教へけむわれはおぼえぬものおもふこと
わかるると言ふきはまではかくばかり思ふとわれをわれ知らざりき
手ぶり見でまなざしのみを見しわれのいつか覺えしおけさをどりぞ
今はただ心ゆくまで相川の濱にねそべりさて旅立たむ
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絶えずがらがらやかましく呶鳴りつけて、夜もろくろく眠らしてくれなかつた海は、立つ少し前には大人しくして居りました。
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われにかはりかんしやくもちを發揮せし佐渡が海こそかなしかりけれ
家なき子また旅をせむ古里のごとく靜かに待ちてあれ佐渡
立ちわかれまた歸るべく思へどもおもへども命かぎりありけり
涙など面倒くさし此儘にいづくへなりとわれをもちされ
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相川を出るその朝から雨が降り出しまして、小木港で船待を五日しました。六日目は暴れのあとでしたけれどもうららかな日が照つて居りました。暴れのあとの斯う言ふ天氣を頭《かしら》日和と佐渡の船場で言つて居ります。
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悲しみをひたにつつみて行くわれを柩に入れて船出せさせよ
わが佐渡よこひしき人ももろともに浪に沈むな船出するとき
佐渡の山こともなげなるおもてしてわれの船出を見送るものか
島にただひとりの君をのこしたるおもひをもちてわれ佐渡を去る
大佐渡と小佐渡とならびなかぞらを君がまなざし照らすその島
あなわびし都大路は路のべに小石のもてる喜を見ず
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赤玉や、青玉や、紫石英や、水晶を包んだ圓石を道普請に使つてゐる佐渡は、うなだれて歩かねばならない時にさへ、一人と言ふ感じがしませんでしたのに。 (一九二六年五月)
底本:「明星」「明星」發行所
1926(大正15)年5月
初出:「明星」「明星」發行所
1926(大正15)年5月
入力:江南長
校正:小林繁雄
2009年5月3日作成
2009年6月5日修正
青空文庫作成ファイル:
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