深し。故に囚獄中の罪人をも、如何にも緩るやかにして鑒誡《かんかい》となる可き書籍を與へ、事に因りては親族朋友の面會をも許すと聞けり。尤も聖人の刑を設けられしも、忠孝仁愛の心より鰥寡《かんくわ》孤獨を愍《あはれ》み、人の罪に陷るを恤《うれ》ひ給ひしは深けれ共、實地手の屆きたる今の西洋の如く有しにや、書籍の上には見え渡らず、實に文明ぢやと感ずる也。
一三 租税を薄くして民を裕《ゆたか》にするは、即ち國力を養成する也。故に國家多端にして財用の足らざるを苦むとも、租税の定制を確守し、上を損じて下を虐《しひ》たげぬもの也。能く古今の事跡を見よ。道の明かならざる世にして、財用の不足を苦む時は、必ず曲知|小慧《せうけい》の俗吏を用ひ巧みに聚斂《しうれん》して一時の缺乏に給するを、理財に長ぜる良臣となし、手段を以て苛酷に民を虐たげるゆゑ、人民は苦惱に堪へ兼ね、聚斂を逃んと、自然|譎詐《きつさ》狡猾《かうくわつ》に趣き、上下互に欺き、官民敵讐と成り、終に分崩《ぶんぽう》離析《りせき》に至るにあらずや。
一四 會計出納は制度の由て立つ所ろ、百般の事業皆な是れより生じ、經綸中の樞要なれば、愼まずばならぬ也。
前へ 次へ
全23ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
西郷 隆盛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング