て之を凌んとならば、彌々《いよ/\》道を行ひ道を樂む可し。予壯年より艱難と云ふ艱難に罹りしゆゑ、今はどんな事に出會ふ共、動搖は致すまじ、夫れだけは仕合せなり。
三〇 命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。此の仕末に困る人ならでは、艱難を共にして國家の大業は成し得られぬなり。去れ共、个樣《かやう》の人は、凡俗の眼には見得られぬぞと申さるゝに付、孟子に、「天下の廣居に居り、天下の正位に立ち、天下の大道を行ふ、志を得れば民と之に由り、志を得ざれば獨り其道を行ふ、富貴も淫すること能はず、貧賤も移すこと能はず、威武も屈すること能はず」と云ひしは、今仰せられし如きの人物にやと問ひしかば、いかにも其の通り、道に立ちたる人ならでは彼の氣象は出ぬ也。
三一 道を行ふ者は、天下|擧《こぞつ》て毀《そし》るも足らざるとせず、天下擧て譽るも足れりとせざるは、自ら信ずるの厚きが故也。其の工夫は、韓文公が伯夷の頌を熟讀して會得せよ。
三二 道に志す者は、偉業を貴ばぬもの也。司馬温公《しばおんこう》は閨中《けいちゆう》にて語りし言も、人に對して言ふべからざる事無しと申されたり。獨を愼むの學
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