に絶對因果的にマテリーとエネルギーとの合一體の進化發展であるから宇宙の現象は一に進化の理に依て研究するにあらざれば到底眞理に到達することは出來ぬと斷定するのである、約述すれば將來の哲學は必ず進化學的でなければならぬとするのである。
 評者又曰ところが先頃來所謂千里眼なるものが透覺をなしたことに就て諸學者間にも種々の説が出て其中でも井上博士の如きは右は到底哲學若くは宗教的問題であつて自然科學抔で研究の出來るものでないと言はれたやうに聞くのである、若し果して左樣であれば博士の主張される不可思議的なる神秘的なる超自然的なる大意思大心靈若くは靜的實在の領域に入り込んで研究せねばならぬ譯であるけれども余は何分にも、それに服することが出來ぬ、尤も余とても何の考もつかぬのであるけれども右等の頗る罕れなる珍現象は或は所謂(Atavismen)(余は譯字を知らねども再現又は復現と譯してよからん)の類で人間の祖先なる動物時代に於ける視覺の復現したのであるまい乎と臆測するのであるが是れは全く臆測に止まるのであるから決して主張するのではないけれども併し兎に角此の如きことは決して人間界に就てのみ研究すべきものでなくて必ず動物界に迄研究を及ぼさねば到底解らぬことではなからう乎と考へるのであるから序ながら一寸述て置く、偖非常に長談議となつたことであるに井上博士を始め諸君の清聽を辱くしたのは余の榮譽とする所である。
[#地から1字上げ](明治四十三年十一月「哲學雜誌」第二八五號)



底本:「明治文學全集 80 明治哲學思想集」筑摩書房
   1974(昭和49)年6月15日初版第1刷發行
   1989(平成元)年2月20日初版第5刷發行
初出:「哲學雜誌 第二十五卷第二八五號」
   1910(明治43)年11月
入力:岩澤秀紀
校正:川山隆
2008年5月20日作成
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