来ごとである――の果て近くまで論じ来り、遂いに淋しい松根に御輿をすえてしまい、秋月すでに帰り、太陽は名代の顔にしま[#「しま」に傍点]を作ったと云う事である。こうした情熱と根強さが、世にも怪しき名探偵作家としたのではあるまいか。
 久作さんはほんとに夢の様に、ポックリ逝かれた。夢野久作なんて何だか予約されていた名前への様にも想われるがそうではない。かかる名探偵作家を現世が産み出したことこそ夢の様ではないか、予約されていたとするならば即ちこれこそ予約されていたのである。
 噫々《ああ》今にして花火線香の玉を消したことは返す返すも残念でならない。も五年でも、十年でもいい、もっともっと火華を散し、火華を咲かせたかった。唯々、惜しいことをしたと思い続けているのみである。
 ここに十巻の全集が世に贈られることは癒されざる慰めの纔かな慰めである。



底本:「「探偵」傑作選 幻の探偵雑誌9」ミ光文社文庫、光文社
   2002(平成14)年1月20日初版1刷発行
初出:「月刊探偵」黒白書房
   1936(昭和11)年5月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2008年11月11日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
青柳 喜兵衛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング