の楽屋だった。ニコニコ愛敬たっぷりに上がっていった師匠の圓生が、なんと今夜最終に圓朝自身鳴物や道具を遣って演るはずの「小烏丸」をそっくりそのまま丸ごかしに素噺《すばなし》として喋ってしまったからだった。
地味な話し口とはいえ、素噺とはいえ、老練の圓生。きのうきょう出来星の圓朝の腕前なんか、爪の先へも及ぶべくなかった。
ハッと吐胸を突かれたときはもう遅く、あれよあれよといううちにとんとんと噺は運ばれ、やがてアッサリ落《さげ》まで付けられてしまった。
もちろん、ひと方ならない受けようだった。
「ハイお先へ。しっかりおやりよ」
下りてくるとニコリと笑ってそのまま師匠は、すましてかえっていってしまった。
「ああ、どうも、これはとんだことになってしまった」
いても立ってもいられなくて、頭をかかえて圓朝は考え込んでしまった。急に道具を取りにやるといっても、青山から代地まで。しょせんが今夜の役には立たなかった。
とするといま持ってきている道具で演るより仕方がない。しかしそのいま持ってきている道具は、あくまで最前師匠が演ってしまった「小烏丸」以外には通用しないものだった。
さりとてまさかに、まさに歴然と演ってしまった「小烏丸」を二度と繰り返すことはできない。
「どうしたらいいだろう全く」
ギッチリ詰まった中入りの客席、しきりにお茶売っている声すら耳に入らなかったほど、立ったり坐ったり、またその辺を意味なく歩き廻ったりしていた。
怨めしいほど早く中入りの時刻は過ぎた。
容赦なく片シャギリの囃子が鳴らされ、歌六という背の高い音曲師がヌーッと上がっていった。賑やかにお座づをつけはじめた。
この人が終ったら、あとはもう泣いても笑ってもこの私だ。
「ああ、ほんとうにもうどうしよう」
いっそ圓朝は泣きたくさえなってきた。でも泣いたとて、喚いたとて、しょせんははじまらないことだった。そういううちも時刻は刻一刻と迫ってきていた。
何とかしなければ……。せっかくの自分の初看板がめちゃめちゃになってしまう。
「ままよ――」
苦し紛れの一策として「小烏丸」によく似た筋を、突嗟に圓朝はでっち上げ[#「でっち上げ」に傍点]た。これなら何とか今夜持ってきたこの道具を、鳴物を、そのまま活かすことができよう。
そう心を定めたらさすがにいくらか胸の動悸がしずまってきた。でもこんな噺、あ
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