に進んだ境地のものがある。例へば線のなだらかな絹物の長襦袢に細帯といふ種の女装は、あまつさへそれの(素描味)へ色味が加はれば、説明以上にある画境への画材となる。
それはその「かたち」を描き生かして直ちにそれが「題材」への肖像となるから、美術として充分味ふに足るものとなる。それ等がこの際日本独得なのは、元より贅するまでもないであらう。
浴衣――「うすき単衣」――の場合にも、「美」はそれと共通のところは多分にある。――ただしこの服装の場合は、美しさの偏奇性はぐつと避けられて、健康となり、衣裳の直線的美感を格段に至るところで強調してある。
まづ身なりの中心に当る胸部へがつちりと(それは端厳にともいへる)帯板をしめつける。次いで背後へは、極めて進歩した渋い表現の具合に、帯の結び目やカケや舌が、ロココ的曲線とは正反対の意味での、強い装飾となり、殊にその色はしばしば単色のべた塗りである。それで、成るべく丸味(実感)を形美の影にかくしてしまふ。
殊にこゝに浴衣については一つの面白いやり方があるのは、意識か無意識か――恐らく前者であらう――浴衣にはのり[#「のり」に傍点]といふものの強さを愛惜
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