大きく、円く、場末々々に見つもれば、良いわけでせうな、といはれた。
「呉竹の根岸の里、なんてところは当然、一里半の寸法から見て、隠居所のわけでせう。木村さんの今のおすまひは」とぼくに向つて「銀座まで出るのに何分かゝります?」
「さうですね、電車だと、まごまごすると『場末』になつちまふくらゐかゝります。バスや円タクでうまく行けば、その半分ですむし、ハイヤーで飛ばせば、十分。――」
するとその座にゐた小杉さん(放庵子)がいきなり佐藤さんに向つて手を振り「乗りものを何か一つにきめて返答させなければいけない。電車がいゝ。電車、電車。」
さういひながら、ずらりとわれわれ一座の中川一政、石井鶴三、ぼく、などの顔に一べつをくれて「さうしないと、このテアヒは、なるべく自分のすみかはバスヱにならない工夫をしていけない。」
そんな話をし合つて、夜おそくまで興じたことがあつたが、今同じぼくの家から、中野、鍋屋横町の近く銀座へでようとするには、どうもがいても「足」を、一時間半と、見なければならない。――さぞや佐藤先生はアノヨで、僕のバスヱ転落を手をたゝいて笑つてをられることだらう。
「かねやす」といつた
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