、病気だつて言ふぢや無いの。そんな、起きてもかまはないの?
沢子 なあに、いゝのよ。――私、先刻から、あんたが来てゐることは知つてゐたんだけど。――何でも聞いて知つてゐるわ。――あんたもいろ/\苦しいわねえ。
初子 生れついてゐるんだわねえ。どうせ、どうなつてもみじめな人間だわ。(間)秦さんまだ通つて来るの?
沢子 えゝ。――。
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間。足音――お秋と杉山が上つて来る。
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杉山 (言ひながら入つて来る)嘘をつきねえ。嘘だ。そんな馬鹿なことがあつてたまるか。そんな馬鹿な――(坐つてゐる初子をヂツと見る)
お秋 嘘だか本当だか、初ちやんに聞いて見ればいゝわ。
杉山 本当かい、おい?
初子 本当よ。
お秋 ね、見るがいゝ。そして、それはお前さんの子だわよ。
杉山 なにい?
お秋 それに違ひ無いのよ。それに違ひ無いと初ちやんが言つてゐるのよ。
杉山 何を言つてやがるんだ。町田がゐるぢや無いか。――そんな、おい、俺を甘く見て貰ふまいぜ。
お秋 お前さんは、そんなやくざ[#「やくざ」に傍点]だよ。自分のことを悪徒だと思つて、悪徒づらしたつて、私にやわかつてゐるんだよ。たゞ何でも無いやくざ[#「やくざ」に傍点]だよ。――人をおどしつけたり、嫌味を並べたりする外に何も出来ないんだ。――お前さんは以前から、資本家がどうのかうのつてえらさうな事を言つてゐるんだけど、それがどうしたの? さう言つてゐるお前さんが、全体何をしたの? 何をしてゐるの? お前さんは、やくざ[#「やくざ」に傍点]なんだよ。
杉山 何を言つてゐるんだ。俺はしようとさへ思へば何でも出来るんだ。たゞ、しないでゐるだけだ。――俺がやくざ[#「やくざ」に傍点]なら、手前達は、ど淫売だ。
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間。
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お秋 それがどうしたの? さうだよ。それでいゝぢやないか。――それがどうしたつて言ふの、これを見るがいゝ。(着物を脱いで裸にならうとする)
沢子 まあ、秋ちやん!
初子 秋ちやん!
お秋 見たきや見せてやるわ。私は淫売だよ。しかし、それをして自分で食つてゐるのよ。自分の身体で食つてゐるのよ。さうしなきや食へないからだわ。――それがどうしたつて言ふの?
弟 (三畳に坐つたまゝ)畜生が! 畜生が! ち、ち、ち、畜生が!
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杉
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