てゐるんだらう。阪井が止せと言つても聞かないで、船の連中と喧嘩をしちまつたんだ。そのほかにも阪井の言ふ事に耳をくれなかつたものだから、阪井が合宿を出て行つちまつたんだ。なんでも朝鮮の方へ行くんだとか言つたさうだけど。
お秋 え、朝鮮へ!
仲仕一 しかし、船はみんな動かねえんだし、まだ立つちまう訳は無えんだけれど――とにかくこいつあ困つたなあ。
仲仕二 困つたつてお前、彼奴が居なけりや、おさまりが附かねえんだ。ほかを捜さうぢや無えか。早くしねえと大変なことになつちまわあ。
仲仕一 さうだ。ぢや行くか。――でねお秋さん、後でもし阪井が此処へやつて来たら、さう言つてくんねえか。俺達が捜してゐたつてね。組合の方へ直ぐ来てくれつて、山《やま》三の親父も待つてゐるつてね。さう言つてくれ、頼むぜ。
お秋 えゝ、言つとくわ。言つとくにや言つとくけど、まあ一杯休んで行つたら。
仲仕一 さうしちや居られないんだ。ぢや頼んだよ。
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仲仕達立去る。
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客一 どうしたんだい。一体?
客二 なあに、浜の方の騒ぎさ、それ、方々の船の連中が、いよいよストライキであらかた下船しちまつたらう。あれさ。
客一 だつてお前、そりや船の連中だらう。今のは仲仕組合のもんだぜ。どうしたんだね。話がわからねえぢやないか。
客三 それはね、船が動かなくなりや仲仕の仕事が無くなる、船でストライキなんかやつて貰つちや五百人からの仲仕は飯の食ひ上げだつてんでね、切りくづしで夢中になつてゐるんですよ。それが嵩じて仲仕が海員協会へなぐり込みをやつたんだ。
お秋 けが人が随分出たつてねえ。
客三 さうだよ、協会にゐる山海丸《さんかいまる》に乗つてゐる男を私は一人知つてゐるがね、そいつも側杖を食つて(頭の横を押へて)こゝんとこをやられてね。なにしろ表から見たが、玄関のとこのはめ板が真赤になつてゐらあ。
客二 そいつあしかし解らねえ話ぢやないか、仲仕だつて労働者ぢや無いか。船の連中がせつかくこゝまでこぎつけたものを、なにも。
客一 それよ、――だけど一番大事なのは誰にしても自分の鼻の下だからな、無理も無えて。
客三 いや、そりや組合の中にだつて、ちつたあ骨の固い者はゐますよ。現に、仲仕の方もストライキに入つて一所にやらなきやいかんと言ひ張つた連中もゐたさうですよ。片腕の、それ、何と言つ
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