。何かを捜す様に室の中をヂロヂロ見廻した後、引込む。
階下の騒ぎ。
汽笛の音。
再び奥から覗く杉山の顔。ズツと室へ入つて来る。
[#ここで字下げ終わり]
杉山 おい。
沢子 え? あ、杉山さん。
杉山 沢ちやんだつたか。――おい、何処にゐるんだい。なには?
沢子 何が?
杉山 早く言つてくれよ。知らない振りをしたつて駄目だぜ、何処に隠してあるんだい。
沢子 何を言つてゐるんだか、私にや解らないわ。
杉山 白つばくれるなよ。俺は知つてゐるんだぜ、何もかも。
沢子 だつて、あんた、何の事だか――。
杉山 まだそんな事を言ふのか、俺は――。
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足音がして、少し乱れた着物をして、手に何か持ちながら、お秋が入つて来る。
[#ここで字下げ終わり]
お秋 あゝあ、やつと寝ちまやがつた。――沢ちやん、あんた、これ食べない(手に持つたものを置かうとして、杉山を見る)おや!
杉山 お秋さん、久し振りだなあ。相変らず全盛だね。
お秋 ま、杉山さん。(間)ほんとに久し振りねえ。どうしたの? あれ以来、スツカリお見限りね。現金なもんだわ。
杉山 さうでも無いさ。
お秋 そして今夜は? どうして又?
杉山 わかつてゐるぢや無いか。
お秋 しかし、沢ちやんは駄目だし、私だけよ。こんなお婆さん。
杉山 そんな事ぢや無えさ。
お秋 だつてお前さん――。
杉山 何を言つてやがるんだ。――白つばくれるのもいゝ加減にしなよ。
お秋 おやおや、何の事なの一体?
杉山 その手を食ふか! 初子を出しなよ。初子を返してくれ。(ドツカリ坐る)返してくれるまで俺は此処で待つてゐるよ。
お秋 え、初ちやん? 変だねえ。初ちやんはあの時、チヤンとあんな話になつて町田さんとこに居るんぢや無いの? お前さんだつて今更――。
杉山 へ、何を言つてやがるんだ。――初子は町田さんとこにや昨日から居ないんだ。此処にゐるんだ。此処に来てゐるんだ。それを知らねえと思つてゐるのか。
お秋 へえ? どうしてまた、そんな?
杉山 どうしてもかうしても無いよ。文句を言はずに出してくれよ。
お秋 町田さんと喧嘩でもしたの?
杉山 そんな事、俺は知らんよ。
お秋 だつて、変ぢやないか。
杉山 変でも、何でも、彼奴、昨日町田んとこを飛出したなあ本当なんだ。
お秋 しかし初ちやんは此の家にや来てゐないわよ。私達、そんな話も聞かない
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