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声 沢ちやん。
沢子 ――
声 何を話してゐるの? ……大分元気さうだねえ。どう、身体の工合は?
沢子 えゝ……。
声 いつまでも、グズグズぢや私の方も困るんだがねえ。どうとかもう……。
沢子 えゝ、それは、よく解つてゐます。ゐますけど――腰がまだ痛んで――。
声 いえさ、無理をしろとは言やあしないさ。しかしねえ、お前が休んでから、もう一週間だからねえ。それに、なんだよ。こゝんとこ桟橋ぢやあんなに船が立てこんでゐて、あの連中今日明日にも下船するとかしないとか騒いでゐるんだろう。あんな、ストライキだなんて言つても、何にもなりやしない事はわかつてゐるさ。先《せん》の時だつてさうだつたものね。しかし私達にして見りや、こんな時に稼いどかなけりや、冥利が悪いと言ふもんだよ。それで――。
沢子 本当でせうか、下船すると言ふのは?
声 本当にも嘘にも浜ぢやまるで火事場の騒ぎだよ。おまけに、浜仲仕の組合でも一緒にストライキをおつぱじめるんだとさ。何が何だか馬鹿げたお話だけど、なんしろさうなると九百人からの仲仕が暇になるんだから、さうなるとお前、私の店だつて――。
沢子 ごめんなさい、おかみさん。それは、出ろと言はれれば明日からでも――。
声 何を言つてゐるんだよ、私や無理にとは言つてゐないんですよ。だけどさ、いくら何だつて私んとこだつて、それぞれの都合があるんだから――。
沢子 えゝ。わかつてゐますわ。
声 だから、なりたけ[#「なりたけ」に傍点]早いとこ快くなつてくれなくつちや――。
沢子 えゝ。おかみさん、なんなら、ぢや、私、今晩からだつて、私、貰ひますから。
声 いえさ、私や何も催促してゐるんぢや無いんだよ。初子はあんな事になるし、秋ちやん一人ぢや手がたりないから、つい、言ふんだよ。――だからさ、別に急ぎやしないやね、とにかく早く快くなつておくれよ。(降りて行く足音)
沢子 えゝ、――えゝ。
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短い間
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弟 畜生! 畜生が!(低い呪ふ様な声)
沢子 恵ちやん。
弟 畜生が! とにかくだつて! 急ぎやしないと言やあがるんだ。無理はさせないと言やがるんだ。――畜生が! 無理をさせようとしてゐるんだ。せき立てゝゐるんぢや無いか。
沢子 何を言つてゐるのよ?
弟 沢ちやん、お前、明日の晩になれば病気がよくなるのかい?
沢
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