にくらべて、お前さんがどう不仕合せだつて言ふの? もう後、たつた一年で何もかも気楽になるんぢや無いの。そりや、そりや、そりやかうして、こんな所にゐるのは、地獄にゐる様なものさ。だけど、そんな泣言を言へば、それがどうなると言ふの? 地獄は地獄さ。それがどうしたつて言ふの? 泣虫!
秦 さうだ、さうだ、そんな今更言つて見たつて――
お秋 それより早く、身体を治してさ、ピンとしてりや、そんな――。
秦 さうだよ。人間、苦しいことを言へば、きりは無えんだから。俺なんぞも、これで、お前――。
お秋 そんな事言つても、(咎めると言ふよりはなだめる様に)新さん、ノコノコ沢ちやんに通つて来るんだからね。小さいのは、達者?
秦 こいつあいけねえ? 藪蛇だ。もう帰る、帰るよ。あやまつた。
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三人弱々しく笑ふ。
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お秋 (しんみり)おかみさんもだけど、小さいのには、よくしてやらなきや駄目よ。親に捨てられたが最後、子供はどうなるか知れないんだから。私達姉弟がいゝ見せしめだわ。
沢子 ――私も早く帰つて呉れと、先刻から言つてゐるんだけど――。
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秦、しよげている。
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お秋 私にやわからないわ。新さん、私、変な事を言ふ様だけど、あんた、家を持つてゐる身体で、どうしてそんなにこんな所にばつかりやつて来るの?
秦 そんな、俺だつて、さう始終やつて来るんぢや無えよ。
お秋 だつてさ、さうぢや無いの? あんたが妻子《つまこ》がありながら、沢ちやんの所へ来るのも、度々言ふけどそんな気持も、私だつて解つちやゐるのよ。そりや人間には、自分がかうと思つても、さうならない事もあるもんだわ。――だけど、つまりが、それは間違ひだわ。
秦 そりや俺だつて――。
お秋 知つてゐるなら、どうしてさうしないの? しかし、私はさう思ふわ、物事はやつて見なきやならないのよ。やつてみなきや、出来るか出来ないか、わからないのよ。
秦 わかつた。わかつたよ。
沢子 この人はいくぢ[#「いくぢ」に傍点]無しよ。
秦 いくぢ無しだ。さう言はれりや――。考へて見りや家の奴等が可哀さうだ。さう思つてはゐるんだけど――。今度の騒ぎだつてさうだ。俺にはどうしなけりやならんかは、よくわかるんだ。それで何も出来ない。黙つて見てゐることしか出来ない。――俺と言
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