処へ持ち込んで来られてもどうにも処置無えだから、その、あんたとこの実行組合にでも行ってだなあ――
農夫 行きやしたよ、サンザ、いくら行っても、受取る時に一々カンカンにかけて受取るわけじゃねえからつうので、へえ、スのコンニャクのと云うばかりでさ――
吏三 スのコンニャクか。弱ったなあ。(ガシガシと頭を掻く)
農夫 弱ったちったって、あんた方あ、頭あ掻いてりゃ済むが、わしら百姓に肥料が足りねえと、これ、命取りだからね。さればと云って、これ、どこへ訴えりゃええか、わからねえですからよ。
吏三 そいでも、川本さんよ、此処は村役場の世話係だかんねえ。カリンサンの事を訴えるちったってお前、……弱ったなあ。(コトコトと足音)ああ久我君、どこへ行くの?
吏二 学校。教科書が来たんですって。……(カタカタと歩いて、入口の押戸をギイと開ける。同時にコロコロと鈴の音)あら、又来た婆さま。そんな所に立ってねえで、おはいんなさい、さあ、よ。(相手を内に入れ、自分は出て行く。押戸がギイギイとゆれてしまる)
そめ はい、はい。(おじぎをしながら、受付台の方へ)
吏三 やあ、そうだっけ、今日は二十六日だった。どうも、こりゃ――
そめ 今日は、ええあんべえでございます。
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ていねいに頭を下げる。
[#ここで字下げ終わり]
吏三 はい。(と、受けて)ええあんべえは、結構だけど、又来やしたかい?
そめ はい、あのう……私は、駒形村、字、鷲山の荒木源次郎の嫁のおかつの伯母で、ズーッと源次郎にかかりうどになっていやす、荒木そめと申します。ちょっくらお願いしたい事がありやして――
吏員 わかった。わかった。わかっていやす。
農夫 はあん、すると、これがシベリヤぼけの婆さまかなし? へえ、話にゃ聞いていたが――
そめ はい。シベリヤから、これが、あの……(と懐中から紙包みを出してガサガサ開く)このハガキがチャンとこうしてシベリヤから参りました。へえ、ごらんなして。チャンと末吉と、荒木末吉と、ここに書いてありやす。無事でチャンと働らいていますから、なんでやす、いろいろ、そちらさまでも御都合がお有りでやしょうけんど、どうぞこの、お願いでやす、早く帰してやってつかあされるように……いえ、ただ身体一つで帰してさえくだされば、それだけで結構でやすから、お願い申します。
吏三 そうら始まった。……婆さ
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