、それの続きとしての進歩が起きたというような事ではないかも知れんね。早くなんとかしてコントロールしないと、こいつから逆に人間は――下手をすると地球そのものまで、吹きとばされてしまうかも知れん。なんか恐ろしく妙な――
須永 妙なことは起きてしまったんです。人間はもう死んでいるのに、死んでいる事に気が附かないで、気が附かないままで生と死の境目の敷居を踏み越えてノコノコ歩いて行ってる。……
[#ここから3字下げ]
(二人とも、いっとき黙りこむ)
[#ここで字下げ終わり]
私 ……だが、須永君――君が私に話したい事は、そんな事じゃないんじゃないかね?
須永 え? どうしてなんです?
私 どうしてと言う事はないが――
須永 なんでしょう――
私 いやさ……どうして君は私んとこに来たの? いや、来たってかまわんけど、特に私んとこに来たと言うのは、どういう――?
須永 そりゃ、尊敬してるもんで――あなただけを僕は、信用すると言ってはなんですけど……そうですねえ、尊敬してると言うんじゃないかも知れません。友だちに逢っても、先輩も親兄弟もそのほかの世間の人も僕には、つまらんのです。直ぐ嘘をつきますから。あなたは、嘘だけはつかれないから、そいで、なんとなくツイお目にかかりに来るんです。
私 そう、そりゃなんだけど――私の言ってるのは今日のことさ。特に今夜はどうして此処に来る気になったかって言う――?
須永 いけなかったでしょうか?
私 いや、いけなかないけど――
須永 それにモモコさんを見たくなって。
私 モモコ? どうして?
須永 好きなんです。
私 うむ。……君、ピストル、持ってるの?
須永 え?
私 持っているんだろう?
須永 ……(私の顔を見ていたが、普通の調子で)ええ持っています。(手紙でも出すような素直さで、右手を内ポケットに入れる)
私 (それをとめて)いや、いいよ出さないでも。……だからさ、その事を――?
須永 え?
私 ……夕刊に出ている、君のことが。
須永 そうですか?
私 知らないのか?
須永 ええ。
私 ……どうして特に此処に来たのかと言うのは、それさ。私は君を好きだから別に迷惑だとは思わない。しかし、君の方としては、それを考えるのが自然だったと思うんだがね。私や、そいからこの家に住んでいる人たちに迷惑がかかると思わなかったの?
須永 (単純ないぶかしそうな顔で
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