れまでに何度も何度もあったっけ、そう私、思ったような気がするわ。
須永 だろう? だからさ……だから、見せてくれないかなあ、裸になって。
モモ 見せたげようか、んじゃ?
須永 お願い!
モモ じゃ、これ持ってって。(フルートを須永に渡し、ズボンのバンドに手をかける)
柳子の声 (下から)モモちゃん! モモちゃん! 降りていらっしゃい! モモちゃん!
モモ (手をとめて)ほら、やっぱし、柳子おばさんが来た。
須永 いいからさ。
モモ だって……しかられちゃう。また、こんだ。
柳子の声 (すこしあがって来て)モモちゃん! さあ、もう、降りていらっしゃい! モモちゃん!
モモ はあい!
11[#「11」は縦中横] 私の室と次ぎの室
[#ここから3字下げ]
(私の室では、私と須永が椅子にかけて話している。その次の室――と言っても、以前は物置に使っていた室が焼夷弾を食って屋根も壁も飛んでしまって床板にも大穴のあいたままの場所の、私の室とのしきりの板戸の隙間からもれてくるひとはばの光の中に、桃子をしっかり抱いた柳子、それから房代、織子、舟木、浮山、若宮、省三が、群像のように動かず、私の室からの話声に聞き入っている)
[#ここで字下げ終わり]
私 (もうかなり話して来たあと)……いや、私の言っているのは、そんな事じゃ無いんだ。
須永 (静かで、昂奮のあとはない)……ですから、あい子は、もしかすると自分でも気が附いていないと思うんです。
私 あい子?
須永 ああ、まだ言ってませんでした。あい子と言うのが本名なんです。本名で芝居などしてはいけないと家で言われて、ミハルと言うのは、劇団はじめる時、僕が附けてやった芸名です。ホントは魚のアユの鮎子です。
私 いやいや、私の聞いているのは、そんなことじゃない。
須永 ですから……その、あい子はまだ自分が死んだんだという事を自分で気が附かないでいるんじゃないかと思うんですよ。僕にはそんな気がするんです。
私 君の言っている事は僕にはわからない。
須永 そうですか? でもあなたは、奥さん亡くされて、そうは思わないんですか? 奥さんはご自分が死んだという事をまだ知らないでいられるんじゃないか? そう言った、つまり……いや、そうですねえ、あい子や奥さんだけでなくです。死んだ人はみんな――いや、こうして生きている僕らも、実はもう死んじま
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