せるが、直ぐに静まる)
[#ここで字下げ終わり]
舟木 ……(それをジッと見おろしていたが)いいだろう、大した事はないようだ。……(私に)どうします?
私 ええ。……
舟木 見たところ、そんな兇暴な所など、まるで無いけどねえ?
私 うん。……極くおとなしい――私にも腑に落ちない。あの男がそんな――
若宮 でも、あの人に相違は無いんでしょう?
房代 あたしは、なんだか違うような気がする。同名異人の――。だって、あんな、まるで女のような人が、そんな。
織子 (柳子の額の手ぬぐいを取りかえながら)私もそんな気がするわ。とてもやさしい、あんな――
私 だったら、ありがたいんですがね。……でも、須永は最近恋人を亡くしています。
若宮 すると、やっぱりそうなんだ。……どうすればいいんですかね? 警察に電話かけますか?
浮山 いや、そりゃ、もう少し待った方がいい。まだハッキリそうと決ったわけじゃないんだから。
若宮 だって、浮山さん、そうだとすれば、何をしでかすかわかりませんよ。ピストル持っているし、あぶない。
舟木 だから尚のこと――いや、仮りにそうだとしてもだな。
省三 でも、なんでしょう、仮りにそうだとすれば、先生、あなたの所に須永君がチョイチョイ来ていたと言う事は、須永君のうちでも知っているんでしょう? それなら直ぐ調べが附いて、もう今ごろは此処へ警察から人が来ている筈だ。
私 ……だが、須永は自分の家じゃなく、たしか下宿しているから、そう早くは調べが附かんかも知れない。もっとも下宿にしたって、もしそうなら、調べれば私の出したハガキなども有る筈だから、それに依って問い合せぐらいは、もう来てるとも言える。
省三 やっぱり、じゃ、ちがいますよ。あんなおとなしい須永君が、そんな筈はない!
舟木 しかし、それはわからない。そういう事は、言って見れば突発的なアクシデントとして起る場合もあるから、その当人の性質如何には、割にかかわらない。
私 ……どうすればいいだろう?
若宮 一刻も早く此のうちを出て行ってもらうとか、なんとか――
房代 ホントにそうだかどうだか、わからないままで? それは、ひどいわ!
若宮 すると、当人に、あんたがそうなんですかと言って聞くのか?
私 待って下さい。私にも、なんか、責任みたいなものが有るから、いっとき私にまかしてほしいんだ。私が逢って見る。すべて、そ
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