り]
浮山 ……モモコ、寒くはないか?
モモ …………(フルートを吹きながら、頭を横に振る。……そのフルートの音と浮山の声で室内の空気が溶けて、やわらかになる)
省三 須永君!
須永 え?
省三 この……(後が言えないでいる)
モモ 須永さん、いっしょに塔に行かない? あすこの方がよく鳴る。(立って須永の方へ)
須永 ええ。(救われたように立ちあがる。足がしびれて少しヨロヨロする)
浮山 でも、あぶないから、もうよしなさいよ。
モモ だって須永さんと一緒だもの。
浮山 でも、こんな暗いからさ。
モモ ホホ、暗いのは平気よ。(須永の手を取って、スタスタ出て行く)
浮山 気を附けるんだよ。……(一同をなんとなく見渡して、立ちあがる)やれやれ。
房代 どう言うんでしょう、ホントに。(須永の残して行った紙幣の山と、その上にのっている指輪を見て)これ、どうするの?
浮山 さあ、やっぱり、そりゃ須永君のもんだろう。
房代 そうね。……(柳子の方を流し目で見ると、柳子はまだボーッとして、立つのを忘れているので、その紙幣たばと指輪を持ちあげて、わきの丸テーブルの上にのせる)
舟木 (織子に)さ、帰ろう。もう遅い。
私 舟木さん、ちょっと。……(舟木の後に従って一緒に行きそうにするが、又立ち停って)あのう――
舟木 なに?
私 そうさな、ここでいいか。……あのねえ、ちょっと変な、この――
若宮 ど、どうもなんだ、全体こんな、いえ――(たたんで、ふところに入れてあった夕刊を出して、舟木に渡す)これ、これです。
舟木 なんです? ……いや、こりゃ僕も先刻読みましたよ。
房代 (夕刊をのぞき込む)なんなの?
若宮 さっき、ちょっとお前にも言ってたろう、アプレゲールのさ。(舟木に)もう一度よく読んで下さいよ。
舟木 だから、これはその三人殺しの――
省三 それが、須永君らしいと言うんですよ。
若宮 らしいじゃ無い、年も合ってるし(私に)名は孝と言うんでしょ?
私 そう。……
舟木 え? すると、この、これが今の、須永――?
房代 へっ? ……すると、なんなの、あの須永さんが、ひ、ひ、人を、あの――?
若宮 今朝だと書いてある。恋人の――もう死んだそうだが、その死んだ恋人の義父、と言うから義理の父親だな。それを絞殺、しめ殺し、そこへ出て来た母親、これは実母、恋人のホントの母親をピストルで射殺、
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