……先輩の、もっと上手な役者に追いつけない?
須永 いえ、僕が、僕に追いつけないんです。いくら追いかけても、追いつく事はあり得ない。……ホントの、この、真実と言いますか、つかまらないんです。
私 よくわからない。……けど、そいだから、芝居の勉強してたんじゃないの? それをつかまえる、そいで、つかまえ得る手がかりとして演劇と言うものを――
須永 そう思っていました。そいで今までの演劇、つまり日本の新劇やなんかの、先生がいつかおっしゃった人生ミミック、物真似芝居の間違いを、自分たちなりに改革して、つまり創造としての芝居を生きて見よう――そう思って、又、そう出来ると思って、やって来たんですが、そいで勉強して来て公演を五六回やって来て、ヒョッと気が附いたら、僕らのしている事は先輩たちの、その物真似芝居の、その又物真似だったんです。……じゃ、ほかに、どんなやりようが有るかと考えたんですが、無いんです。僕らには、その他に方法が無いんです。……そいで、もう、ガッカリしちゃって。……そうかって、僕らの今までの生活、と言いますか、――そん中には戦争というものが有ったきりで、あと何も無い。僕らの持っている現実と言ったようなものは、空っぽで、まるで影ぼうしです。……そいで、やめちまいました。
私 ……わかるような気もするが、しかし――
須永 あなたには、わからないんです。だろうと思います。
私 ……うむ。……そいで、ほかのみんなは――ここにも来た園山君だったか、あの人など、どうしてる?
須永 あれは、死にました。
私 え、死んだ? ……それは、どう――?
須永 はあ。
私 ……そうかね、それは――
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(間。……どこかで笛の音がしている)
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須永 モモコさんは、眼が見える望みは、もう無いんですか?
私 うむ?
須永 いえ、モモコさんですねえ――
私 ……だが、あの園山君という人と君とは、この、たしか――?
須永 ……(笛の音に耳をすましている)
私 どうして君は笑えるの?
須永 え? ……笑っちゃいません。
私 ……そうかねえ。ハッキリとはおぼえていないが、綺麗な人だった。なくなられたのは、いつ?
須永 おとついの――
私 おとつい?
須永 いや、先月の、おとついに当る――いえ、十五日ばかり前かな。
私 ……どうしたのだ此の男は? 恋人が死ん
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