かな声で)あい子、そんなに急がないで。待ってくれ。……(月の方を向いてスッと身体が傾いたかと思うと、足が手すりを離れ、あまり重さの無い棒が落ちて行くように横になったままスーッと下へ落ちて行き、今度は、いつまでたっても音はしない)
モモ ……(しばらく吹きつづけてから、フッと吹きやんで)え、なあに? (須永が居なくなった事に気づかぬ。返事を待つ気も別に無く、軽い明るい声が須永に話しかける)ほらね、お月さんが胸んとこまで来たでしょう? グングン昇る。須永さん、そっちい向いてごらんなさいよ。ね! お月さんは冷たい、もう死んでると言うけど、でも、お月さんの光が、おちちの下のへんまで来ると、なんだか、あたし、くすぐったくなるのよ。……(フルートを再び唇へ持って行く)
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(昇る月のドンヨリした光に、白くかすんで立っている彫像)
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底本:「三好十郎の仕事 第三巻」學藝書林
1968(昭和43)年9月30日第1刷発行
初出:「群像」
1952(昭和27)年8、9月号
入力:伊藤時也
校正:伊藤時也・及川 雅
2009年4月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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