れない。ハハ! ハハ! ……ハハハ! だって、こっけいじゃないか! 原子爆弾で人間はみんな殺され、死んでしまうかもわからないのだよ。それを、ほかならぬ人間自身が作り出して、使った! ハッハ! 神だけがする資格のある事を、人間が冒したんだよ! 冒した! もう取りかえしは附かない。それを使う事を決定し、ボタンを押した人の手は、その人たちの手は、まだ腐らないで腕に附いているのだろうか? お前は知っている! その人は誰だえ? …………(微笑を浮べた顔で、客席の方を、いつまでもいつまでも覗きこんでいる)
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(間)
(出しぬけに奥で、激しくガン、ガンガンとノックの音。死んだようになっていた浮山が飛び上って階段をあがり、外へ出る。……私はユックリそちらへ頭をめぐらす)
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浮山 ……(階段口から半身を見せて、低い声で)警察の人たちだ。
私 う? ……(そちらへ行きかけ、再びユックリと上半身をめぐらして、いぶかしそうに客席の方を覗きこんでいる)
20[#「20」は縦中横] 塔の上
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(暗い夜空の、どこかに月が昇りかけたと見え、下の方から濃紺色にほのめいている中に、塔はポカリと浮いている。その上に、夜空に向って半ばシルエットになって、相対して立っている須永とモモコ。須永は先程のままの姿で、右手にダラリとピストルをさげて、しげしげとモモコを見守っている。モモコはスベリと一糸もまとわぬ裸体で、左手にフルートを掴んだまま、エジプトあたりの彫刻でも見るように、なんの恥かしげも無くピンと直立している。足元に脱ぎ捨てた着物)
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須永 ……寒くはない、モモコさん?
モモ ううん、なんともない。
須永 きれいだ。
モモ お月さん?
須永 ううん、モモコさんが。
モモ フフ。その、あい子さんて言うの、きれいだった?
須永 うん、きれいだった。でも、身体は見たことなかった。
モモ そう? どうして?
須永 どうしてだか。フルート聞かしてくんないかなあ。
モモ お月さんが、もっと、ここんとこまで昇ったら。
須永 お月さんは、もう昇ってるよ。ほら! (と、こっちを振り向いた顔が急に白く光る)ズンズン昇る。
モモ 今あたしの肩んとこまで来た。胸んとこまで来たら。
須永 モモコさんは、自分が生れて来て、よかっ
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