ストルをください。(私からピストルを受取る)モモコさん、行かない? (モモコの手を取って階段の方へ)
モモ うん。
須永 (階段の上に立ちどまって)生きると言う事は、殺すという事ですよ。あなた方は、みんな死んでいるんです。
[#ここから3字下げ]
(モモコの手を取って上へ消える。残った一同は、須永の最後の言葉と共に、実際に死んでしまったように、全く動かなくなる。それは、ちょうど一撃のもとに全員が蝋人形になってしまったかのようである。……そのままで時間がたつ。次第に暗くなって来て、しまいに私だけを光の中に残して、他は全部見えなくなってしまう)
[#ここで字下げ終わり]
私 (冷たい、しっかりした、低い声)しかし、私は生きて行くだろう。いや、今こそ、生きて行く。これまでは生きてもよければ死んでもよかった。しかしこれからは生きて行く。私も窒息しかけている。私の身体は足の方から膝、腰、腹、それから手、肱、肩と、だんだんに冷えこみ、しびれて来ている。われわれは死にかけている。だから、生きるのだ。だから生きて行けるのだ。ホントは生とは、かくのごときものだ。足元を死にひたされている故に、生は生なのだ。散って落ちれば花びらは泥になる故に、花は花なのだ。その先っぽが死につながっていなければ生は生ではない。……窒息は近づいている。それは必ず来る。望みはない。だから生き得るのだよ。だから生は在り得る。須永は窒息の不安に押し倒されたのだよ。私も不安だ。しかし押し倒されはしない。感情無しに、冷たく、それを眺め、迎える。窒息が最後に私のノドモトを掴みとるまで、私は私の歌を歌う。須永は恋愛をして、生の中の一番の生に触って見て、もう生きていられないことを悟った。私はお前の死と、そして今須永の死とに触って見て、生きて行くことを知った。私は冷たい鋼鉄のように生きるであろう。お前は私から立ち去って行きなさい。安心して私のそばから離れて行きなさい。私には私の闘いがある。私が私の闘いを残りなく闘い抜いた道の果てに立って私を待っていなさい。そこで私はお前に逢おう。……もう間もなく夜が明けるだろう。今日の夜明けから私は昨日までの私ではないだろう。生きて行くことを知ったからには、そして生きて行かなければならぬものなら、進んで生きよう。私は身体をもっと大事にしよう。仕事も始めようと思う。ピストンのチューブの中にも自
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