言う立派な娘さんも居るしさ。フフ、立派……とまあ、パンパンだって、これで、高級になれば今どきでは立派なもんだからね。娘を稼がせて、あんたあ左うちわじゃないかね。
若宮 大きなお世帯だ! この――(と、やっと起きあがって)そいで、浮山君、君はどうしようと言うんだ?
浮山 わたしは柳子を女房にして、ここで暮す。
若宮 ヘ! お前さんが柳子を女房に、どうして出来るね? 笑わしちゃいけません。知らねえと思っているのかね?
浮山 なにい! (立ちあがる。真青に怒っている)
若宮 ヘッヘヘ、ヘッヘ! なあんだ、来るのか? 柳子から、わしあ、なんでもかんでも聞いているんだ! ヘヘ、君がコーガン炎の手術の手ちがいで、そん時以来、男じゃなくなっている事まで知っていますよ。
浮山 ちきしょうッ! (若宮の方へ突進して行く)
若宮 (フラフラと立ちあがり、刀を振りまわす)来て見ろ、腎虚め!
浮山 野郎! (と、ポケットから掴み出した。センテイ用のスプリング・ナイフの、スプリングをパンと押して、ギラリとした刄を出す)
[#ここから3字下げ]
(雙方で刄物を構えて立ちはだかる。……)
[#ここで字下げ終わり]
モモ 叔父さん。……(いつの間にか、廊下の所に来て立って、細い首をさしのべるようにして、室内の様子をうかがっている)
[#ここから3字下げ]
(浮山も若宮も睨み合ったまま、それに答え得ないでいる)
[#ここで字下げ終わり]
モモ どうしたの、叔父さん?……

     18[#「18」は縦中横] 食堂

[#ここから3字下げ]
(椅子にかけた私に向って織子が懸命に、ほとんど祈らんばかりに訴えている)
[#ここで字下げ終わり]
織子 お願いです! あなたから、おっしゃって下さい。あなたから言われれば舟木は聞くかもしれません。いえ、聞かなくても、自分のしようとしている事を多少は控えるかもしれないのです。私は恐ろしくてもうジッとしていられないのです。
私 すると……しかし、あなたはこれまでズーッと舟木さんがそう言うつもりでいるらしいと思っていられたわけなのに、それでも今まで黙っていられたのに、今夜急に、そのジッとしてはいられない――で僕に言われると言うのは、どうして――?
織子 どうしてだか、私にもわかりませんの。不意に我慢が出来なくなったんです……あの須永さんて方を見たせいかも知れません。
前へ 次へ
全82ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング