言う兵長だ。部隊本部の参謀に可愛がられていやあがって、いつでも俺たちの事を言いつけやがる。スパイだ。島田の口のひとつで昇級したり、あぶない所へ転属されたりするんだ。そいつが、俺の事を目のかたきにして、インテリなんぞに戦さあ出来るもんか。人が殺せるもんか。年中俺をなぶり者にするんだ。そこい、便衣隊が三人つかまった。共産軍の、まだ十七八の青年だ。おめえにくれてやるから、やって見ろ。やれめえインテリ。分隊全員の前で歯をむいて笑うんだ。カーッとなった。ホントはやりたくなかった。ホントは笑ってる島田をやりたかった。しかしカーッとのぼせて、俺は銃剣を振りかぶっていた。ズブッと言って、小さな声でキイと言った。十七八の共産兵だ。俺は目の前が真暗になった。夢中で突きまくった。三人終って、銃剣を手から離そうとすると、ネバリ附いてて取れないんだ。ボヤッとした月が出ていた。……殺したのは俺だ!
須永 君が殺したんじゃないよ。
省三 殺したのは俺だ!
須永 殺したのは戦争だ。
省三 う? ……そうだ。だから俺はあの三人の仇を打ってやる!
須永 三人を殺した君がかね?
省三 そうだよ、仇を取ってやる。
須永 すると又戦争がはじまる。
省三 今度の戦争は最後の戦争だ。戦争を無くしてしまうための戦争だ。
須永 そう言っては、何度でも戦争をする。
省三 俺たちのする戦争だけが正しいんだ。
須永 両方で、いつでもそう言うよ。
省三 君はニヒリストだ。反動の二人や三人殺してなんになる? センチメンタリズムだ!
須永 (はにかんで)じゃ、幾人殺せばいいの?
省三 幾人?
須永 誰と誰とを殺せばいいの?
省三 誰と誰?
須永 言って見たまい。僕が行って、みんな殺して来てやるよ。
省三 う? ……(びっくりして須永を改めてマジマジ見る。その末に、キョロキョロあたりを見る。自分の手を見る。それを開いたり握ったりして見る。再びあたりを見まわし、暗いのをすかして客席の方を覗くようにする。微笑を消さない須永の視線も、省三の視線を追って客席の方を、すかして見ている)
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(しばらく前から、バリリン、バリリンと聞えて来ていた三味線※[#始め二重括弧、1−2−54]大ざつま※[#終わり二重括弧、1−2−55]の音が急調になり、狂ったように激しくなる)
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     15[#「15
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