)あんな事を白木さんに言つて貰つちや困るぢやありませんか!
彦一 悪かつたかねえ?
お辻 不意に帰つて来て、事情もなんにも知らない癖して、何だよ、ほんとに……
ミル 兄さん、もう何処へも行つちやいけないよ。
彦一 いや、俺あチヨツト寄つて見ただけだ。さういふわけにやいかねえ。
[#ここから2字下げ]
お辻、小走りに階下へ去る。あと親子三人、互ひに見合つてゐる。――間――
[#ここで字下げ終わり]
彦一 父つあん……随分久しぶりだなあ。
彦六 (噛みつくように)どつからうせやがつた?
彦一 ひでえ事になつたもんだ。ハハ、どつか悪いのか?
彦六 貴様、又この辺をウロ/\してゐやがると、向ふずねを叩き折つてやるぞ。(足を踏みしめて立つて来る)
彦一 だが、よくこれまで頑張つたねえ。
彦六 利いた風な頤をたたくかつ! 貴様、この家の事件をどこかで聞きこんで、一口割込まうと思つて来やがつたんだらう。
彦一 何を云ふんだ! 俺あ、宵の中に府中から出て来たんだが、何だかバツが悪くて階下でマゴマゴ待つてゐる間に、はじめて話を聞いたんだ。
彦六 何を出鱈目言ひやがる、出来そくないめ!
ミル ……兄さん、
前へ 次へ
全64ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング