木細工の箱の様に薄つぺらで小さな「純喫茶」と言ふやつ。しかも名前が、たしか「ル・モンド」と書いてあつた。僕は吹き出しさうになり、しかし、又、その大袈裟な所がトタンに気に入つて、飛び込みかけてヒヨイと見ると、隅の方にトグロを巻いている男の顔がチラツと見えた。顔見知りだが名は知らない。タカリ専門の三文演芸新聞を編輯している男で、此奴が酔ふと、必ず「左翼も駄目になつたなあ君、俺が江東で金属をやつていた時分は――」と来て、それから打つちやつて置くと筋もなにも通らないオダをあげて相手を離すことでは無いのだ。しまひにベロベロになると「全世界の青年××のために乾杯しよう」と来る。ことわると「ぢや反革命だな貴様は!」と眼を三角にして詰め寄つて来るから、始末に悪い。
 僕は恐れをなして、踵を返すと、どう言ふものか、いきなり中華料理店に飛び込んでしまつた。大方、あわを食つたせゐだらう。しかし、その狭苦しい不景気な中華料理店の、ドロドロに汚れた腰掛に尻をトンとおろして何と言ふ事も無く溜息をついたら、急に腹が空いたやうな心持になつたから妙だ。シユーマイを一皿注文した。そしたら今度は小便がしたくなつた。
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