んてえ、卑怯な真似はあんたも考へちやゐまいね。
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言はれて彦六はせせら笑ひをしながらチヨツト考へてゐたが、直ぐにそのままミルの身体を抱くやうにして、裂けたまま下つてゐるカーテンの奥へ押し込んでしまひ、自分は寝床にゴロリと横になつて毛布を被る。白木は鉄造にめくばせし、キユーを二本取り、鉄造に一本持たせる。階段に足音。お辻、球のサツクを持つて来て、球台の上に球をばらまく。白木がいきなり球を突く。押殺した短い間。
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お辻 ……三つ。……五つ。
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ドアを押して客二がスイと入つて来る。
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お辻 ……おや、いらつしやい……七つ。
客二 (室内を見廻す)なんだい、今のは?
お辻 今のつて? 九つ。九つ当り。
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ゲーム盤をカチヤリと鳴らす。白木、横目で客二を見る。
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客二 いや、今の音は?
白木 ……あゝ(階下で見た客であることに気が附いて)私がさつきキユーを倒したから、大方それだらう。
客二 (鉄造を見る)ひどく顫へますね?
お辻 お突きんなりますか?
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客二、返事をしないでニヤツとする。
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お辻 (笑顔を見て、不意に相手を認め、思はず立上る)あ! 彦一!
白木 え?(お辻と客二を見較べてゐる)
鉄造 彦一さんだ!(呆然と見詰める)
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向うを向いて寝てゐた彦六が、ウツ! と言つて此方を向き、客二を見るや起きあがる。無言で見合つてゐる父と息子。
間。
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鉄造 ……変つた。……今の今迄気が附かなかつた。
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ミル、カーテンの蔭から抜身を持つて飛び出して来る。上り端に立つたまま兄を見詰める。怒つた様にムツとした顔。刀が手から落ちる。
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ミル あゝ、兄さん!
彦一 ……大きくなつたなあ、お千代……(ミルの左手に目を付けて)ああ、いけねえ、斬つたな。
ミル なに、かすつただけだ。
彦一 どれどれ。(腰から手拭ひを出して裂く)つまらない物をいぢくるから、怪我をするんだ。(ミルの指をしばつてやる)
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鉄造が白木に、しきりと耳打ちをしてゐる。
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彦一 痛いか?
ミル 痛くなんかない
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