寄つて来る。
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男三 ……おい、お前さん方あ――?
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二人連〈れ〉はサツと身を引いて開き、双方しばらく無言で相対する。
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男一 ……(押し殺した声で)お控へなさい……お前さんは?
男三 私あ、此の裏の柴田です。
男一 私あ、麹町の久賀山です。これは弟でございます。
男三 お名前はかね/″\承つて居ります。でなんですかい、御用のすじは?
男一 外でもござんせんが、聞き及びますりや、そこの鉄造さんの処ぢや近頃結構なお話しがおありなさるやうだが、こちらも満《まん》ざら知らねえ仲でもなし、何か御挨拶の一つ位あつてもよからうと思ひまして、参つたわけでございます。事が、白木さんに御挨拶をしなきやならない筋合ひではございません。
男三 ぢや、お通んなさい。(言つてスツと闇に消える)
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以上の事は素早く、殆んど瞬間に行はれる。男一と二はドアを押して店に入る。
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アサ もう駄目ですよ、時間過ぎですから。(さう言ふアサを男二が黙つて押しのける)もう駄目ですつたら。
男一 おやぢさんに麹町の久賀山がお目にかかりたいと言つてくんな。
アサ ……今、今居ませんよ。
男一 居ない筈はねえ。
アサ なんの御用ですか。
男一 此の家屋の事に就いて御相談したいことがあつて来たつて、さう言つてくれ。
男二 おい、ねえちやん、早えとこ頼むぜ、いい子だから。(アサの腰に手をやる)
アサ なんだい! フン、糞面白くも無い。ゐないと言つたら――
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と云ひかけてゐる中に、男二、出しぬけにステツキをふり廻す。
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客二 ……おい、どうしたんだよ? なんだいあんた方あ?
男二 おめえこそ、なんだ?
客二 物騒な物を持つてゐますねえ?
男二 なによつ!
客二 まあ/\さう怒るなつてえことよ。
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客二を先程からヂツと見てゐた男が、あつと低い声を出し、男二の背広のスソを引張る。
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男二 なんだよ? ……(男一が耳打ち)……え? ひこ? 彦か? そいつあいけねえ。(客二をちらツと見る。青くなつてゐる)
男一 どうも、お見それしちやつて……(ペコペコする。男二もペコペコする。二人コソコソと出て行つてしまふ)
客二 ……なあ
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