鉄造 ……へえ。
白木 へえじや無いよ君! たつた今も電話で知らせがあつたんで、びつくりしたんだが、一了見で変なおチヨツカイを出して貰つちや困る。人夫はこつちの命令で踏込むことになつて居るんだぜ。それを、君達が動かすと言ふ法は無いよ! 藪蛇になつたらどうするんだ?
鉄造 どうも済みません。いえ、此方で放り出してしまへばあなたの方の手間が省けると思つたもんですからねえ。それに先程はお辻さんが降りて来て、今奴が居ないからと言ふんで、そいで、つい!
白木 その抜けがけの巧名がいけないんだ。実は今夜はいよ/\何んとか解決しないと私も間に立つてゐて、松山さんの方に合はす顔が無いんで、最後の掛け合いに来る気でゐた。それに応じなければいよいよの手段に訴へるつもりで手続きは取つて来てある。そいで、出かけようとしてゐる所へあの電話だ。
鉄造 すみません。
白木 とにかく上へ行かう、今夜はもう否やは言はせない。
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二人出て行きかける。丁度そこへ、じだらくな恰好で階段を降りて来たお辻が、髪の地を指で掻き〈掻き〉ドアを押す。
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お辻 あゝ白木さん。
白木 やあ、困つた事をして呉れるねえ。君達が頼まれもしないおチヨツカイを出したばかりに、彦六め、又ぞろ尻を据へて捩《ね》ぢ〈れ〉て来出したら、あの約束も切[#「切」に「ママ」の注記]角だが取消しだよ。
お辻 (あわてて)だつて鉄造さんが、あなたの話だつて、さう言つて――
鉄造 おい/\、邪慳な事は言ひつこなしにしようぜ、もとはと言へばお前が――
白木 まあ/\いいからとにかく行かう。居るんだらう?
お辻 ゐますよ。どこまでネバる気だか、さすがの私も驚いちまつた。あんまりクサクサするんで、ブランデーでも貰ほうと思つてね、鉄造さん、一本頂戴。
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鉄造スタンドの棚から酒ビンを取つて来る。お辻、客二の後姿を認め、ビンを受取りながら、鉄造に、不用心を眼顔で知らせる。その間に白木は外に出て、往来の奥の方へ手で合図をすると、コールテン服の男がスーツと出て来てペコ/\する。白木低声に、二階を指差して何か命令している。
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白木 ……いいな?
鉄造 おいアサ! お店を頼んだぜ。
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 お辻は外に出て階段の方へ、白木も階段の方へ、コールテン服は往来へ消え
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