まになつてゐたドアから、ハンテン着や、ボロボロのコールテン服や、少しはましな洋服を着たりした、ルンペンとも暴力団とも附かない五人の男達がザザツと入つて来る。修とミルが抱き合つて立つた姿に足を停めるが、忽ち畳敷の方へあがり、押入を開けたり、乏しい家具に手を掛ける。ミルと修は立ちすくんでゐたが、やがてミルが五人の方へ行く。
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ミル なにをするんだ!
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五人は歯牙にかけず、一人はニヤリとしてカーテンをベリベリと引きちぎる。ミル飛びあがつて行き人夫につかみかゝる。そこへ彦六が裏梯子の方から押入の横へ現はれる。右手に一合瓶、左手にシユーマイの皿を持ち、立停つて皆をウツソリと見廻してゐたが、やがてしづかに寝床へ行き坐る。人々の眼が、彼の上に集る。……やがて彦六は手を出し、懐中から取出したチヨコに酒を注いで飲み、シユーマイを、ボソボソ食ひはじめる。一言も口を開かない。周囲は石の様になつてゐる。……鉄造の顔がドアから覗く。続いてお辻。
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鉄造 あゝ、いけねえ! 居るぢやねえか。(恐ろしくヘドモドして)全体これは――。お前たちあどうしようと言ふんだい? いづれ、白木さんの方のなのだらうが――
彦六 ふん……
お辻 (キヨトキヨト彼方此方を見てゐたが、急に大きな声で)何だい、人の家に踏み込んで来やがつて! おい! サツサと出て行つて貰はうぢやないか! ばかにしてやがる! (その見幕はたゞ事でない。五人の闖入者はびつくり呆れた顔、口を開けてお辻を見てゐる。少しも解せない様子)放り出すなら放り出して見ろつてんだ! チヤントかうして主人が居るんだよ! ふざけやがつて!
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五人はゾロゾロ階段の方へ去る。終始無言だが、出がけに中の一人が「なあんでえ、話しが違うぢやねえか」と言ふ声がきこえる。
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ミル 畜生め。(やがてお辻の方を向いて)お辻さん、先刻あわてて何処へ行つたの?
お辻 なにさ、旦那が一人でソバを買ひに行つたてえから、心配になつてね、ちよつとそこまで……なんだい。
鉄造 だが事態がこんなになつて来てゐるんだ。此方でも考へなくちや。ねえ正宗さん。
彦六 動けないんで弱つた。出て行くと言つたつて行く先もありませんしね。
修 ……僕、これで失敬します。
ミル さうね、おかげでお稽
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