尾崎 だつて君……(と尚も言ひ続けようとするが相手が殆んど爆発直前の顔付きをしてゐるのに気付いて、黙つてしまつて、マヂマヂと見守つている。しかし五郎の怒りは直ぐに尾崎からもつと別のものに移つて行つたらしく、尾崎の存在など忘れてしまつて、ギラギラと光る眼で沖の方を見詰めたまゝ、黙つて考へてゐる)
(間)
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街道の方から母親と恵子が砂を踏んでブラブラ歩いて来る。
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恵子 ……ああ、こんな所に居たのね?
母親 お客が来るといつでも此処にお連れして話してゐなさるんだよ。美緒の安静をこはさないやうにね。此処が応接室だつてさ。ホツホホホ、ねえ五郎さん。
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五郎考へ込んでゐて返事をしない。
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尾崎 やあ、こりや、暫くでした。今日はお見舞ひですか。
母親 いゝごきげんですわね。こんな広々した所でお飲みになると、さぞ気持のおよろしい事でせうね。
尾崎 つい久我君がすゝめて呉れるもんですからね、ハツハハ、飲み助は意地がきたなくて。(と恵子に目礼をして、ひどく愛想が良い)えゝと、たしか、津村さんの――?
恵子 はあ。(これまでホンの一度か二度チラツと見たきりの相手があまり馴々しいので、妙な顔をしながら)……いつも義兄達が御厄介になつてゐまして。
尾崎 そ、そんな事をおつしやられると穴にでも入らなきやなりませんよ。なあに旧い友達なもんですから、まあ自分に出来るだけの事をしてゐる迄で――。(母親に)なんですかねえ、御病人がハツキリしないさうで、御心配ですねえ。
母親 はい、いゝえもう、なんですか……ホホホ。(久我が美緒の療養のために、金を借りてゐるらしい此の男にかかり合つてゐると、その借金の責任が自分にもかぶつて来さうなので、相手にしたく無いのである。)……何か御用談でせう? 恵さん、私達は少しその辺を歩いて来ようぢやないか。(歩き出す)
恵子 (描きかけのスケツチ板を変な顔をして見てゐたが)えゝ。
五郎 ……あのう、美緒は飯を食べちまつたんでせうか?
母親 もう済んだやうですよ。でも、あの小母さん、あんなに美緒を笑はしてばかり居て、病気に障りはしないんですかねえ?
五郎 いや、そりや構はないんです。機嫌が良いと食慾がつきますから。
母親 小母さんの月給はチヤンと渡して呉れてゐるんでせうね?
五
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