五郎 ありがたう。キツトよくなるよ。キツトよくなる。……ホントに済まなかつた。
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 三人、キチンとお辞儀をしてから、立去りかける。それを見て美緒が片手をあげる。
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五郎 どうしたい? (三人の子も立停つて振向く)
美緒 ……(低い低い、かすれた声で一生懸命の力を集めて)あのね……みんなに……言つて……頂戴。……私……あなた方……の事……ホントに……好きだつた。……みんな、……みんな……自分のこと……よりもみんなを……愛して……ゐたつて、……さう……言つてね。……みんな……元気で……私の……分まで……元気で……やつて……頂戴つて……さう言つて……ね。
五郎 もういゝ、馬鹿! 疲れる!
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 三人の子の中で少女二がいきなりワーツと泣き出す。少年があわてゝ、泣くなと言ふ意味で、少女二をこづきまはす。少女一もポロポロ泣き出した。五郎があわてゝ三人を押すやうにして庭を歩き、裏口の方へ連れ出して行く。
 少年はまだ少女二をこづいてゐるが、庭のはづれで自分まで泣き出した。……三人と五郎消え去る。
 後では、これも涙ぐんだ小母さんが、何も言へず、ハンカチで美緒の頬を拭いてやつてゐる。昂奮をしづめてやらうとして美緒の手を撫でゝやる。……間。五郎が玄関から戻つて来る。
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五郎 ……(容態にさはりはしなかつたかと、ジーツと美緒を見詰めながら、努めて落着いた調子で)馬鹿だよ。……だから、言はない事ぢや無いんだ。……それに愛してゐたなんて、キザだ。わかり切つてゐる、そんな事。……第一、ゐたと言ふのは全体、なんだよ? ゐたとは過去のことだぞ。阿呆!
小母 少し水で冷しなはるか?
美緒 ……いゝの……なんとも……無い。
五郎 いや……小母さん、水汲んで来て下さい。(小母心得て台所へ去る)……苦しくは無いか? (脈を取る)……。
美緒 ……平気よ……あゝ……嬉しかつた。……
五郎 平脈だ。……でも喋るなと言つてあるのに、馬鹿だ。……でも良い子ばかりだな。……シヤクリ上げながら駅の方へ行つた。悲しいよりも、久し振りにお前を見て、うれしいんだよ。……あんな子達を何十人となく、お前は育てたんだ。あゝしてグングン大きくなる。……すばらしいぢやないか。やがて大人になり、みんな働いて、その内に子供を生む。……明るいよ。ク
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