らしい緊張した顔で、うなづきながら聞いてゐる。一人は質素な和服を着た十六七の少女、一人はカーキー色の国民服を着た十五六の少年。この二人ともまだ小さいのに関らず、既にどこかの職場に働きに出てゐるらしく、その年頃の中学生や女学生には無い所の強い着実さと言つたものが身に附いてゐる。もう一人は十一二位の洋服の少女。
 五郎、注意し終つて、三人を導いて病室の前の縁側の所へ連れて来る。それを焼け附く様な視線で見迎へてゐる美緒。……三人の子供も、五郎の傍に横に一列に並んで、きまり悪さうにお辞儀をしたまゝ寝台の上の美緒をなつかしそうにジーツと見ている。
 そのまゝで永い間。
[#ここで字下げ終わり]
男の子 ……(口を利いたものか、どうしたものかと五郎の顔と美緒とを見較べてゐた末に)美緒先生、……御病気どうですか?……あのう、僕達、……みんなを代表して……。
美緒 ……(三人から目を離さず、しきりとコツクリをして見せる。うれしさうに涙ぐんでゐる)
少女一 ……もつと、しよつちう、皆来たがつてゐるんですけど、……大概もうみんな働きに行つてゐるもんですから、それで暇が無いもんですから……。みんな、先生の事心配してゐます。……こないだも、同窓会があつて、五十人位集つて来て、そいで、美緒先生の事、みんなで話して、そいで、そん時に正木さん(と少年を指して)と、私と、そいから君枝ちやん(と少女二を指して)と……この子は先生知らないでせうけど、今の所《しよ》で女の組の組長してゐる藤堂君枝ちやんです……こんだけが代表でお見舞ひに来ることに決つたんですの。……ほかの人もみんな来たがつたんですけど、みんな忙がしいもんだから……。
美緒 ……(コツクリをしてゐる)
少女二 私は先生には教はらなかつたけど、でも先生のことよく知つてゐます。
少女一 あらあ、だつて、どうして知つてるの?
少女二 だつて、遊戯室のオルガンの上に、先生の写真が懸けてあるぢやないの。あれで知つてゐるんだわ。ほかの先生や卒業した人がさう言ふのよ。これは、この託児所こさへた美緒先生だつて。だからあたし達もみんな、美緒先生々々々々と言ふんです。
少女一 さうなんです。久我先生といふ者は一人も居ないんですよ。みんな私達の真似して美緒先生と言つてます。
少年 みんな元気で、大概働いてゐますよ。僕は寺島の方の明石鉄工所に行つてます。まだ見習な
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