ては、仕方が無いんだな。……君んとこ、金は無いんだらう? 失敬だが……。
五郎 無い。しかし拵へますよ。どんな事をしたつて――。
比企 いや、そんな無理はしない方が良い。病院かサナトリウムに入れて必ず良くなるに決つてゐればそれも良いかも知れないが、残念ながら今の医学ではそこまでは断言出来ないしね。仮りに治るとしてもだ、それが治つた頃には又別の形でやられるよ。君が倒れるとか、奥さんが又別の病気にやられないものでもない。君に言ふ必要もあるまいが、結核と言ふのは大概の人が実は持つてゐる。それが病気として現れるか否かの違ひだ。病気として現はれるといふのは、狭くはその当人のそれまでの生活の無理、広い意味ではその家族全体の生活の無理なんだからな。……それを治すために、もう一度無理をするのはよした方がいゝ。もつとも世の中に全く無理のない人間生活なんて無いわけだけど、それも程度問題だなあ。君ん所では、現在でも困つてゐるんだらう?
五郎 ……困つてゐます。僕あ実あズツと二度しか飯を食つてゐない。……でも僕あ美緒を、なんとかして――そりやあなたの言ふ理窟は判るし、それが本当だと思ふけど、僕は、とにかく美緒を、どんな事があつても、これつきりにしたく無い! たまらん!
比企 わかるよ。君としては、さうだらう。……しかし、今のまゝで行つても、駄目と決つたわけぢやないし、第一僕の言ふのは、金の問題も金の問題だけど、それよりも、現在、僕の見る所では、君がかうして附いて実行してゐる奥さんの療養生活は、全体としてどんな病院にもサナトリウムにも劣つてはゐないからなんだ。
五郎 しかし、それがなんにもならないぢやありませんか。……僕あ、彼奴を取られたら困るんだ! 僕あどうしていゝか解らなくなる! 死なしたく無いんだ! なんとか方法はないんですか? なんとか、なんとか、なんとかして――。
比企 ……君がそんなにイライラしちやいかんなあ。……君は家で奥さんの前にゐる時にはあんなに落着いてゐるくせに、此処へ出て来ると、どうしてそんなに調子が違つちまふのかね? 此の前来た時にも気がついたんだが。
五郎 そんな事あどうでもいゝんだ。ホントに頼むから、なんとか、なんとかして――。
比企 困るなあ。……君も、奥さんが病気になつて以来、基礎医学から勉強しはじめた位で、これまで医学的に有効な方法は全部採り尽して来てゐるん
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