へてやるんです。寝台から静臥椅子にうつす時に。……軽い。……まるで真綿でもかゝへてゐるやうに軽い。……肉がまるで無くなつちやつてゐるんだ。そのたんびに、僕はズキーンとするんですよ。ズキーンとする。……これが以前ヅツシリと重かつた女です。……をんな。……さうだ、彼奴はもう女では無いんです。それでゐて、彼奴はやつぱり女ですよ。妙な気がする。彼奴の身体の事は一切合切、全部、僕は知つてゐる。それでゐて、なんか、とても妙な気がするんです。
京子 お気の毒ねえ。(ホントに同情してゐるのである)
五郎 いや、そんな意味で言つてゐるんぢや無いんです。そんな殊勝らしい気持で言つてるんぢやない!……どうか、かんべんして下さい。
京子 なにをおつしやつてゐるのか、わからないわ。御気分が悪いんぢやなくつて?(心から心配さうだ。此の女は、五郎と二人きりになると、急に女らしく受動的に素直になる。従つて又、利男その他を相手にしてゐた時の高飛車な輝きも失つてしまつて、極めて平凡な女になつてしまふのである)
五郎 なあに、なんでもありませんよ。少しグラグラするだけです。
京子 でも、なんですか、もつと休養なさる様にしないといけないわ。あなたまで身体を悪くなさりでもしたら、美緒子さんだつて結局――。
五郎 そんな事は言はないで下さい。美緒の事なんぞ言はないで下さい。あれは良い奴です。あんな良い奴はありません。しかし、貪欲です。恐しく貪欲です。なにもかも、それこそ何もかも取り上げないと承知しないのです。あいつは死にかゝつてゐます。死にかゝつてゐるくせに、なにもかも容赦しない。全部、それこそ、自分の周囲の人間の呼吸してゐる空気まで、自分のものにしないと承知しないんだ。こつちが息苦しくなつて、息がつけなくつても、彼奴は、まだ取らうとする。僕は、自分が彼奴を大事に思つてゐるか憎んでゐるか、わからない時がある。……いや、美緒ぢやない、美緒を憎むと言ふよりも、彼奴の持つてゐる生命です。生命と言ふものの貪欲さです。生命の本能です。執念深い……そいつは恐しく執念深い。愛情だとか、愛だとか、そんなものでは、もう間に合はないんだ。そんな甘つちよろい物なんか吹き飛んでしまふ。なんか、もつと別な、もつと物凄いもんです。……僕あ、時によると美緒を一思ひに殺してやらうかと思ふことがあるんですよ。
京子 まあ、キビの悪い。何をおつ
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