言へなくつて。そこへ持つて来て、今の話で、スツカリどうも毒気を抜かれちまつた。ハツハハハハ。
伊佐子 (明るい自然な嬉しさうな顔になつてゐる)だつて、あなた。……(笑つて)でも、ホントにあなた真赤よ。うでだこみたい。それで聯隊へ帰つたら叱られやしない?
美緒 ですからホントにあつちの居間の方でいつとき横におなんなさいよ。なんなら小母さんにチヨツト毛布でも出して貰ひますから。(五郎に)ねえ、お願ひだから、あなた散歩して来て頂戴よ! (語気が強い。先程から顔を紅潮させて、イライラしてゐるのである)ね! もうあと一時間しか無いのよ!
五郎 だから俺あもつと赤井と話がしたいんだと言つたら! お前、なんでそんな風に言ふんだ? (少し怒つてゐる)
美緒 ですからさ! だから――(伊佐子に)伊佐子さん、ホントに御遠慮はいりませんから、あちらへ、どうぞ! それぢや赤井さん佐倉へは帰れませんわ! 居間の押入れに毛布がありますから。小母さんは、たしか買出しに行つたやうですから、どうか御遠慮なく。ホントに! 横になつてユツクリなすつて!
伊佐子 はあ、でも(モヂモヂしてゐる)
赤井 (びつくりして不安な眼で見ながら)……いゝですよ、そんな。寝たきや、勝手に寝ますから、そんな……。
美緒 どうぞ、ホントに……(涙声になつてゐる)
五郎 (美緒の昂奮のしかたが、あまり異様なのでドキンとして)美緒、お前、どうしたんだ? 真赤ぢやないか。(と額に掌を当てゝ熱を計る) なんでそんなに……?
美緒 (その五郎の掌を振り払つて)いゝのよ! ホントに浜へでも散歩に行つて! ね!
五郎 行けと言やあ行くけど、……なにをそんなに気を立てるんだ。どうしたんだ?
美緒 どうもしない! 気分が悪いんぢや無いの。だからさ!……(泣き出してしまふ)
五郎 ……? (不安さうに、どうしていゝかわからず美緒を見詰めてゐる。赤井夫妻も心配さうに美緒を見守つて困つてゐる)


     4 浜で

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2と同じ場所。
砂丘の上にも、波打際にも人影は見えない。
砂丘の中腹の草の上に、比企の脱ぎ捨てた浴衣が置いてある。
その上の草の中から聞えて来るアルトの Torna A Surriento(G. B. de. Curtis)「ソレントへ帰れ」
唄声はその辺一体に流れ漂うてゐる。
京子が砂丘に寝て歌つてゐるの
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