に言ふのよ。
赤井 (美緒のために心配して、五郎を見て)具合が悪かつたんぢやないか? かうしてゐるの良くないんぢやないか?
五郎 うゝん、いゝんだ、いゝんだ。なんでも無いんだ。利ちやん、お母さんは直ぐに大袈裟に言ふんだよ。
利男 でも、とにかく、あれで姉さんの事を心配してゐる事は本気で心配してゐるんだからなあ。
五郎 そりや、さうだ。そりや、さうだ。たゞね――。
美緒 (イライラしてゐる)利ちやん、あんた、少し浜の方を散歩でもして来たらどう?
利男 うん、さうしようかな。勤めてゐて久しぶりに外に出て来ると、なんかしらん、気が立つてね。ハツハハ、海でも見て来るかな。赤井さんも行きませんか?
美緒 いえ、赤井さん達には色々お話が有るだらうから――。
利男 あのね、姉さん、僕の事で此の前お母さん何か話してゐなかつた? いや、目下、その、候補者が二人有るんだよ。僕あまだ月給四十五円しか取つてゐないし、そんな話は未だ早いと言ふんだけど、お母さんは、そんな事あ無いと言つて肯かないんだ。そいで――。
美緒 (苦笑して)後で聞かせて貰ふわ、後でね。比企さんの京子さんも見えてゐるわ。
利男 え、京子さんが? さう、一人で?
五郎 いや、兄さんと一緒だよ。今、浜で泳いでゐる筈だ。
美緒 利ちやんも泳いで来たら、どう?
赤井 いや、僕等の事なら、どうぞ、御遠慮なく。かまひませんよ美緒さん。
利男 (やつと少し姉の気持が分つて)[#「分つて)」は底本では「分つて」]……ぢや僕、チヨツト行つて来るかな。泳ぐのも久しぶりだなあ。水着は此の前のが有つたね。……ぢや又あとで。(台所の方へドンドン去る)
赤井 相変らず元気だな。
五郎 (苦笑)なんしろ勤めはきまつたし、面白くつて仕様がない時代なんだね。でも性質は無類に良いんだ。これの肉身の中で、あの男だけは飛び抜けて善良なんだよ。……伊佐子さん。わざわざおみやげを済みません。いよいよ赤井が行くとなると、あなたも大変だ。
伊佐子 はあ。……(眼はやつぱり赤井を見てゐる)
赤井 なあに平気だね? あとの事は久我君にみんな頼んどいたから。家の者が少し位変な態度を見せたつて、知らん顔してりやいゝんだ。
伊佐子 (今迄固くなつてゐたのが、フツと自由な気持になつてニツコリして)あなた、顔が真赤だわ。
赤井 ひどく飲まされた。ハツハハハ。
伊佐子 あのね……(と
前へ 次へ
全97ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング