先は無し、困っていたら――兄が昔、先生から教えていだいた事が有ると言う縁で、こうしてお手伝いしながら、御厄介になっているだけなんですから、出て行けとおっしゃれば――
誠 (子供のようにすすりあげる相手が憐れになればなる程イライラして来る)そんな! そんな事を僕は、そんな事を言ってるんじゃないんだ! 僕が、僕が言ってるのは――僕は、僕が、どんな風に考えているか、君は、よく知っているんだ!
せい ……ええ、そりゃ、わかっています。だから、ありがたいと思って――
誠 ありがたいなんて、そんな――僕ぁ一人の男として、あんたをなにしているんで――
せい (小さい声で)うれしいんですの、ですから。……しかし、でも、私、それで、どうすればいいんですの? ……弱いんです私。……そうは思っても、急に言われても、私には、どうにも出来ない――
誠 だから、あんたの手でそれをしろと言ってるんじゃない。あなたさえ、心をきめてくれれば、あとは僕が処置する。場合によって、厨川と言う人とあんたと僕と三人同席してようく話し合った上で、気持の上で三人とも無理のないようにしてですね――
せい いえ、とてもそんな事だめです。よして下さい。そんな人じゃないんです。とてもそりゃ、いちど間違うと、とんでもないムチャをする人で。こないだなども、どうでも戻って来ないと言うんなら、殺してしもう。……そう言ってアジ切りなど持ち出して、ホントに私の肩に切りつけたりして。……着物を斬られただけですけど。そう言った――いえ、以前はムチャはムチャでも、そんなあぶない真似なんかする人じゃありませんでした。それが出征している間に、なんだか、スッカリ気持が荒れて――自分じゃ、向うで患った熱病が、まだ抜けきらないせいだってって言いますけど――カッとすると、まるで気がへんになったみたいな――
誠 それは、そんな事をして見せると、君が、ちじみあがってしもう事を知っているためにやる事だ。とにかく、僕が一度逢って見る。おだやかに話せない問題ではないんだ。
せい いけません。そんな――いいえ、私からよく話して、なにしますから、もう少し気長に――
誠 君にまかしとけば、いつの事になるかわからない。
せい 大丈夫ですから――
誠 だつて、もう二カ月も三カ月も同じ状態で少しも話が進みはしない。君の心持さえハッキリきまっていれば、こんな事、結局はそんな
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