な人よ、せい子さんて。ううん顔やなんかでないの。ここ。(と自分の胸を指す)大兄さん、寂しいのよ。ひもじいのよ心持が。そいで、せい子さんに、なにしたんだわ。せい子さんの、やさしい、そして弱い所が大兄さんを引きつけたのよ。
欣二 へっ! ヘヘ、笑わすなよ。お前に何がわかる!(もうかなり前に、それまで背後の窓を明るくしていた夕陽の光がスーッと消え、それから暫く、夕暮れの明りが差していたのが次第に薄暗くなって来ている)
柴田 (その薄暗い中で、欣二の顔をマジマジと見ていたのが、嘆息して)欣二……お前も、頼むから……もう、いいかげんにしてくれないか。
欣二 ……なんです?
柴田 そのお前の――
欣二 だって、そうじゃありませんか。兄さんだけじゃない、あんな女あ、今に、お父さんまで引っかけにかかりますよ。
柴田 なんと言うことを――
欣二 お父さんにゃ、わからねえんだ。おせいさんは、実は、叔父さんよりも兄さんよりも、お父さんに惚れているね。
柴田 ばかな事を言うもんじゃない。……私の言ってるのは、お前自身のことだ。なにが善くて、なにが悪いかという事は、お前には、わかっている。いいや、シラをきっても、だめだ。いくらお前が悪くなったふりをしても、私はお前の父親だ、ごまかされはしないよ。お前はやっぱり、内の欣坊だ。中学から高等学校まで、殆んど首席で通して来た――気のやさしい、曲った事のきらいな柴田欣二だ。もう、よいかげんに、つまらない事をして歩くのも、やめておくれ。
欣二 ……(不意に黙りこむ。間。――戸外からかすかに流れて来る三平の「アイアイアイ」の歌声)
柴田 え? お前達青年がシャンとしてくれないで、これからどうなる? この国のなにもかも――やりなおしが、うまく行くか行かぬか――いっさいがっさいが、お前達にかかっている。負けて倒れた人間が自分の非をハッキリと認めると同時にだ、自分のいのち、自分達のいのちの在りどころに自信を持つ。この国の、民族のいのちの正当さを掴むのだ。それには青年の力が必要だ。……私のこういう気持、わかるね? 考えてくれ。お前のことを、なによりも、誰よりも大事にかけて私は――ねえ欣二。
欣二 ……(ケロリトした調子で)お父さんだってヘドを吐くじゃありませんか。フフ! ヘドだ。鼻もちがならん。……どいつもこいつも黄色い顔の中から、モグラモチのような眼をして……日
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