、なさいまして?
清水 ……はあ。
せい 先生は?
清水 は?
せい どっかへ、あの――?
清水 いらっしゃらないんです、どなたも――。
せい へえ。……ひるっから、そこでおよっていらしったんですけどねえ。(上手の壁のわきに敷きっぱなしになっている敷きぶとんを見る)――裏へでも、じゃ、おいでかしら、呼んでまいります。
清水 ――寝ていられると言うと、先生、まだやっぱり、おからだが――?
せい いえ、かくべつ、どこが悪いと言うんじゃないんですけど、なんですか、弱っていまして――私ども、心配しているんですけど――なんしろあなた、ちかごろの――(その時またドシンと響く音に気づいて)ああ! また、なすってる!(床を見る。上手の扉の近くの床板が三尺四方に切り取られて、そのあげぶたが横にずれたところから黒く見える床穴の所へ行き、下をのぞき込む)先生! あの、先生!――(床の下からユックリ何か答える声)
清水 何をなさってるんです?
せい 防空壕なんですの。
清水 防空? 今頃、また――?
せい 戦争中、先生、ご自分でお掘りんなったんですの、この下に、電燈を引いたりして。とても、そりゃ――。いえ、戦争がすんで、埋めちまったにゃ埋めちまったんですけど、いいかげんにしといたもんですからね、いつの間にか根太がゆるんでしまって、こら――(両足でドシドシ床を踏んで見せる)こんな。
床下の声 おっと! ど、ど、どうしたんだあ?
せい (笑いながら再び穴の下をのぞいて)ほほ。――(床下の声が何か言う)――いいえ、お客さんですよ。――(床下の声)はあ、学生さんで、あの――
清水 清水八郎です。
せい 清水さんとおっしゃるかた。(床下で何か言っている声)――そうです、あの、学校の方の。(床下の声)
清水 (床下へ向って)三年のBクラスの。――(床下で何か言う声)はあ、いえ、僕はいそぎませんから。
せい 腹んばいになってやっていらっしゃるんですから、急には出て来れないんですよ。まあどうぞおかけんなって。
清水 はあ。(しかし、立っている)――
せい こちらへ。(食卓のそばの椅子を指す)
清水 ――失礼ですが――奥さんでいらっしゃいますか?
せい はあ?
清水 いえ、あの、先生の――?
せい まあ!――ほほほ。
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(床穴から柴田欣一郎がニュッと首を出す。半白の頭髪を手拭でしばり、
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