へえった、飲みない。
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そこへ川下から、沢の浅瀬を渡って来る足音がチヤッ、チヤッ、と近づいて来て、
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仲蔵 あーい、六平の小父さんよーう!
健二 ああ、仲が来た!(そっちへ呼び返す)おーい、仲蔵かよう!
六平 ほうら、お花坊のお婿さんがやって来た。
お花 なに云よるとな、小父さん!
六平 んでも、そうじゃろがい?
お花 知らんっ!
六平 どうしたな? なにをそんな怒るか?
健二 小父さん、それは、もう云わんなおって――あの……
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云ってる間にも仲蔵の足音は近づいて、
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仲蔵 おやおや、健二もお花ちゃんもここにおったっか、はは、ちょうどよかった! 営林区の丸材の切り出しはどうしたかと思うちね――
健二 しめて十八本、下の落しの方が四十四、五本たい。
仲蔵 よかよか。そうか、んじゃ今日の俺の役目はこれですんだようなもんたい。
六平 あい、茶ば飲みない。はは、さあっきから、お花坊がおのしをお待ちかねたい。
お花 ばか小父さん!
仲蔵 はは、いや、実あな、お花ちゃんに今度はどんなおみやげ買うち来てやろかと思うてね。
お花 おみやげなんて、あたしゃ、いらん!
仲蔵 へえ? この前はリボンとクシ買うて来てくれと言うたろうが? どうして急にいらんか?
お花 いらんけん、いらん!
仲蔵 アッハハ、なんかまた怒っちょるな? なあに、いらんちうたとて、お花ちゃんの欲しい物ぐらい俺あ知っちょるさ。リボンにクシに、反物ば買うて来てやろたい!
健二 んだが仲よ、そんなこつに金ばっかり使うて、又帰って来て丸市の親方からカス喰うのはやめにしろよ!
六平 そうだそうだ! 筑後川すじから佐賀へんにかけちゃ、舟幽霊じゃとか、人のシリコ玉あ抜く川太郎じゃとか、おしろいくさいバケモンがウンと居るけんなあ。まあまあ、おみやげよりゃ、その用心する方がよかろうたい。アッハハ!
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他の三人も笑う。
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お花 小父さん、木びき歌、唄うち聞かせちくれない!
六平 又はじまった。俺のヘタクソな歌ばっかり聞いてどうするか?
お花 ううん、あんやんが、あたしの歌がつまらんと言うき、上手になりてえき。ねえ唄うちくれない!
六平 そうか、そんじゃま! ……どうもしかし、ノコ使わんと
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