アッハハハハ、と二人が声を合せて笑う。

健二 そら、行くぞ、お花どいてろう……

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カーンと打ちこんだ音でヒノキの大木がベリベリベリ、ザザザーッと倒れる音。
妹が兄に近づいて行き、
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お花 こら、この汗だ、あんやん!

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兄の背中を拭いてやる。
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健二 (気持よさそうに)ふう! こいで丸市で入札したぶん、しめて十八本、すんだな? ここらで六平小父さんとこで昼めし食うか。
お花 落しの方へはこんどかんでも、いいか?
健二 うん、どうで仲が、筏くむ前に来るき、落しはひきうけたと云うとった。
お花 するちうと仲さんがここい来るちね?
健二 来ちゃ悪いっか? はは、さ行こ!
お花 うん……

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兄弟は下生えを踏みわけながら傾斜を沢の方へくだって行く。その音……
健二がフッと立ちどまって、
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健二 お花、おのしは、いくつになったか?
お花 え? なに?
健二 おのしゃ、いくつになった?
お花 あたしゃ、十八だ。なぜ、そんな事きくか?
健二 十八か。……おらが二十三。二十三の木こりが十八になった妹ばつれて山かせぎに出るちうのもおかしかけど、しょうねえ。俺にしたっておのしば、娘らしう裁縫やなんか習わせて、早うよか所へかたつけてやる仕事をさせんならんと思わんわけじゃなかばってん、俺とおのしは兄一人妹一人の二人っきりで、お父ちゃんもお母《か》しゃんも、ほかに兄弟もなかけんなあ、村の家におのし一人ば置いといて俺が山に入るわけにもゆかんき、こうして……
お花 あたしはお嫁になんか行かんばい。それに家で一人でいるよりゃ、こうしてあんやんと山で稼いでる方がズッといい。
健二 いや、俺の言うとるのは、人間なあ、誰でもうぬが生れついた境界ば忘れちゃならんちうこつたい。どうせ、俺たちゃ、山ん中で生れて山ん中で果つつ身分じゃけんねえ。
お花 あんやん、なんの事云いよるとかい?
健二 なにさ……仲蔵は、あいで、俺とは学校友達じゃし、おのしとも仲が良うて、そいで今はああして丸市製材の川師で働いとるが、もと/\あすこの親方の遠縁でな、行く行くは丸市の養子になるかもしれん男たい。俺たちたあ身分が違うさ。
お花 んだから、それがどうしたというのな?
健二 どうしたと
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