なにかしらドキッと僕はしたのです。どつかしら、その女の身體つきに見おぼえがあるような氣がしたのです。見おぼえと言つても、ハッキリこの眼で見た記憶とも言えないが、向うを向いた顏の襟足のへんだとか、肩から背中の凹み、それから全體のポーズなど、目で見たとも、手でさわつたとも言えないが、どこかでおぼえが有る。……もちろん、いくら考えても、ハッキリした事は思い出せない。その頃まで僕は、あの夜の女のことばかり考えていたものですから、僕の頭にはその事が來ていたのです。しかし、もちろん、ハッキリとそうと思うだけの根據はありませんし、又、いくら僕の頭が狂つていても野口のワイ寫眞の中の女があの女だろうなどと思つたりは出來ません。ただ、その寫眞を見て、何か妙な氣持になりながら、あの女のことを考えていたのです。
 實は、後になつてわかつた事ですが、その寫眞の女はルリだつたのです。ルリをモデルにして野口が寫したのだつた。どこかしら、僕に見おぼえが有るような氣がした筈なんです。……しかし、その時にはルリの事なぞ思い出しもしないで、あの女の事ばかり考えながら、寫眞を見ていたわけです。實にキタイな話ではありませんか。
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