あるのです。商賣で癖になつた媚態らしいですが、しかし、そういう商賣をして來た女の、變な慾望――カラダだけの感ずる慾望もあるのではないかと思います。僕はそれを見て二度ばかり泣き出してしまいました。ホントにナサケ無かつたのです。
Mさんの手紙の事をたずねても、なんにも憶えていないようです。いつ誰からもらつたのと聞いても思い出せないらしい。書いてある意味もわからない。ただその紙だけを非常に大切にしているのです。戰爭中、特に終戰近くの事など完全に忘れていて、どこで何をしていたと聞いても、その時々で言うことが違います。
その日は、僕が買つて行つたイモやコッペパンなどを、うまそうに食べてしまうと、タミ子が外に出ようと言うので、しかたなく僕も一緒に出かけました。たいがい、そういう時には公園の中をアチコチうろついたり、時によつて驛の構内へ行つて立つていたりするんですが、ウッカリすると例の横穴の方へ行くんです。アサマしい氣がして、一人で出すわけには行きません。僕はナサケ無い氣持で、スタスタ歩いて行く女の四五歩あとから、公園の坂道を登つて行きました。良い天氣で、カッと日の光です。動物園にでも行くのか、子供づれの夫婦者の姿などもチラホラ見かけました。
不意に僕は泣きたくなりました。そして、口の中で「お父さん、僕はどうしたらいいんです?」と繰返し繰返し言つていました。そういう癖が最近に僕に出來たのです。ナサケ無く、やりきれなくなると、ひとりでにそれが出て來るのです。その時もそれを言いながら、僕はチョッと下を向いて歩いていたらしい。タミ子がフッと立ち停つたので、なんの氣も無く、前の方へ眼をやると、タミ子から三四歩、僕から六七歩の坂の上に、こちらを向いてルリが立つていたのです。例の山梨での身なりと同じで、顏色は、附近の樹の葉の色の反射のせいだけで無く、まつさおで、眼は射るようです。大型の袋のようになつたハンドバッグを握りしめた右手がブルブルとふるえているのが眼につきました。
44[#「44」は縦中横]
僕はドキッとしましたが、しかし不思議な事に、ルリの出現そのものは、それほど意外な感じはしませんでした。動てんしてしまつたために、そんな事を考えている餘裕も無かつたとも言えるかもしれません。ルリが、僕の後を追つて東京へ出て來て、(僕が女を搜している事は、久子さんがスッカ
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