んから――」と言いはじめると、
「ああ、あなたなの!」と、ジロジロと僕を見ていましたが、不意にニタニタ笑い出し「そうか。そいで……タミさんに、直ぐに逢つて見る?」
「……タミさんと言いますと?」
「あ、そうか。名前も知らないんだつけ。フフフ」
 どうも樣子が、景子さんが何もかも、しやべつてしまつたらしいのです。僕は眞つ赤になりました。
「いいさ、いいさ。所も知らず、名も知らず、か。いいさ。いいじやないのよ。ハッハハ。直ぐに行つて見る?」
 僕がモジモジしていると、一人でのみこんであがれとも言わず、そのままクツを突つかけて下へおり、ガラガラピシャンと表戸をしめて、先きに立つてドンドン歩き出すのです。
「タミさんと言うのよ。ホントの名は私も知らない。自分でそう言うんで、みんなそう言つてる。いえね、あなたの話を景子君から聞いてね、なんだかトテモ感心しちやつてね。いえ、感心と言うと變だけどさ、フフ、だつて、いまどき、そんな時のナニを搜して歩くなんて、なんだかトテモうれしくなつちやつてね。ハッハハ、これ、オールドミスのセンチメンタリズムだね。まあ、なんでもいいや」古賀さんは歩きながら、大きな聲でガラガラとしやべる。「趣味でね、あたしの。あすこいらの界隈の女たちの、めんどうを時々見てあげる。醫者だからね、こいでも。タミさんの手當てを一二度してあげたことがあるんだ。そんでね、たしかに、そうじやないかと、そんな氣がしたもんだから。景子さんから話を聞いて、聞いているうちは思い出さなかつたけど、後でヒョッとそうじやないかと思つたんだ。妙な手紙持つているんでね、その子がさ」
 路はだんだん上野公園の裏の方へ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りこんで行く。そのうちに、言葉を止めてヒョイと立ち停つて僕をジロリと見てから、
「チョット聞いておくけどね、貴島さん!」と改たまつた調子なので、「はあ」と僕が言うと、今度はしばらく默つていてから
「ずいぶん、ひどい事になつていますよ」
「その人がよ。かまわない? ……こんな時代。弱い女一人が生きて行くにや、いろんな事がある。わかるわね?」
「……ええ」
「一番惡いことを、考えて置いてほしい。……私たちに、今、こんな中で、どんな人でも批難できやしないだろ? みんな、人間だ。……人間は、みんな弱いんだよ。わかるわね?」
「わかります」
 古賀さんは
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