そうです。野口の所に居ると國友の子分たちに附きまとわれるので、あれ以來、野口の所を出てしまつて、うぐいす谷の方のアパートに住み、生活の方はデパートのマネキンになつたり、時によつて畫家のモデルになつたり――そのほか、上野や淺草かいわいで、例の案内ガール、つまりカフエーの客引きのオトリ[#「オトリ」に傍点]をしたり、それから、もつとひどい事もしたかも知れない、僕には現在でもそこの所はハッキリわかりません――そして、時によつて、いよいよ困るとフラリと野口のアトリエに現われて現金引きかえに寫眞のモデルになると言つたような生活をしていたらしいのです。で、野口から、僕の事を聞くと、トタンに「春子の家」に飛んで行き、春子さんに僕の所在をたすね、こうして山梨へやつて來たのです。
そんなわけで、ルリは、一緒に久子さんの家に暮すようになつたのですが、前にも書いたように、ただすまして暮しているだけで、僕にはなんにも言わないです。むやみと落ちつき拂つてしまつたように見えます。それを又、久子さんが平氣で受入れて、僕が一人いる時など、
「ルリさんて子は、いい娘さんだなあ。キレイだ。いいえ、心もちだけじや無い、カラダもよ。ありや、まだ處女ずら」と言つてニヤニヤ笑うのです。「處女ずら」と言うんです。そういう言い方をする人なんです久子さんという人は。僕が困つて
「迷惑をかけますねえ。どんな氣で、こんな所までやつて來るんだか……」と言うと
「そりや、あんたのオヨメさんになりたいからさ。貴島さん、あの人もらつちまいなさい。いいんだろ? あんただつて、あの人、好きなんだろ?」
と、一人でのみこんだような事を言うのです。
そうです、好きだと言われれば、好きかもわからない。しかし、具合が惡くつてしかたが無いのです。それにルリにそばに居られると、なにかしら僕は押しつけられるようで、變に息苦しくなるのです。やりきれなくなるのです。それが段々こうじて來ると、しまいにルリが憎らしくなつて來て、逃げ出したくなるのです。そして、あの女――あの晩の女のそばへ行きたくなる。あの女が戀しくなる。だのに、あの女は、どこにも居ない。どこを搜しても、もう見つけ出すアテは無い。どうすればいいんだ? 俺は、どうすれば――頭がボンヤリして來ます。ボンヤリしたまま、ルリの事が益々息苦しくなり、怖い。變に怖いのです。
――遂に僕は我慢
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