の開拓村で働らいた經驗が有つたから、まあ、やれるんですよ。とにかく、村の人に憎まれるワケが、こつちにもあるんですよ。私は、これで、ゴーツク張りですからね」
 久子はその晩、イロリのそばで、僕にそう話して、カラカラと笑つた。
 しかし、その夕方、中年百姓を相手に口ぎたなく罵り合つている彼女の形相は、ただ淺ましく動物的なだけで、右の彼女の内心など微塵も現わしているものではなかつた。この女は、いつでもそうなのだ。心の中には、それだけ廣やかな反省やフックリした感情を持ちながら、いつたん他の人と爭つたり――いや、他の人と爭つたりする時とは限らない、生活のあらゆる部面で現實的に行動する時は常に――たとえば畑で働らいている働きぶりから、家で食事をする時のメシの食い方まで、動物的でガツガツして、なにかしら野卑だ。――僕には、感覺的に附いて行けない。何か、動物のメスを見ているようで、本能的にイヤな氣持になる。……それが、こうして又此處に舞いもどつて來て、この女のそばで百姓の手傳いをしているんだから皮肉だけれど、しかし、現在でも、彼女のそういう點は好きになれない。――
 口喧嘩は三十分ぐらい續き、一時は叩き合いになるかと見えたが、相手の百姓が僕に目をつけ、僕のことを何と思つたか、急に語調を低めたが、やがて捨ゼリフのような罵言を吐きちらしながら、立ち去つて行つた。あと、久子は氣が立つままにブツブツ何か言いながら鍬を片づけたり、手足を洗つたりして、僕のことなど無視していたが、やがて、老婆が「この衆がお前の所へ來てな――」と言うと、やつとこつちを向いてくれた。でもムッとしてどなたとも言わない。僕は、困つたが、しかた無く、Mさんの名を言う。するとヤットいくらか打ちとけてくれ、上にあげてくれる。既にトップリと日が暮れて、屋内は眞暗になつているが、電燈は無し、ランプもつけない。久子は、眼をさまして、まつわり附いて來る幼兒を叱り叱り、バタバタと夕食の仕度をするし、僕は、ボンヤリと暗い中に坐つているきり。やがて夕飯になり、「ホート」と言うスイトンのような汁を僕にもくれた。それがすんで、「どんな用です?」と問われたが、この女が僕の搜している女で無い事は、それまでにわかり過ぎる程わかつているのだし、返事に困つたが、又例のMの事を書くためウンヌンを言い、立川景子さんに聞いて訪ねて來たことを述べる。疑われるか
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